「会社が潰れて専業作家にならざるをえなくなった」乾ルカさんインタビュー(3)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第32回の今回は、新刊『四龍海城』(新潮社/刊)を刊行した乾ルカさんです。
 最終回の今回は乾さんご本人について。ちょっと変わったご趣味をお持ちのようです。

■「考えている人を見るのが好きなのかもしれません」
―乾さんご自身を振り返っていただいて、作家としての個性はどんなところだと思いますか?

乾「何を書くかわからないところではないでしょうか。これを個性というのかはわからないですけど。よくこういった取材で“前作とはまたちょっと雰囲気が違って…”ということをよく言われるんです。作家さんってそれぞれカラーのある方が多いと思うんですけど、私にはそれがないみたいで。だから、無理やりではありますが、これを個性と言わせていただければと思います」

―デビューから4年経ちましたが、執筆のスタイルや日常生活など、デビュー当時から変わったことはありますか?

乾「すごく変わりました。2年前までは会社に勤めていたので、専業作家になったのは最近なんです。会社が潰れてしまって、専業にならざるをえなくなったんですけど(笑) 」

―そんな事情があったとは…。でも、意図せず専業作家になってしまったにもかかわらず、やっていけているのはすごいことだと思います。

乾「今だけだと思います。そのうちまたハローワーク通いが始まる…(笑)
専業はやっぱり経済的な不安が大きいので、いいことではないと私は思っています。今は勤めは無理だと思いますけど、できることなら高校時代に戻って公務員になればよかったなとも思いますね。頭が悪いから不合格だったでしょうが。万が一公務員になれていたら、作家になりたかったなぁ、とか思ってるんでしょうけど」

―乾さんが人生に影響を受けたと思う本がありましたら3冊ほどご紹介いただけますか?

乾「まずは大崎善生さんの『将棋の子』です。将棋の奨励会って年齢制限があって、その年齢までに四段に昇段できないと強制的に退会させられてしまうんです。この本は、そうやって棋士になれなかった方のその後の人生を追うっていうノンフィクションなんですけど、この本を読んだ当時は小説の投稿を続けていた時期で“私は何回落ちても何年落ちても、小説には年齢制限がないからこの人たちよりずっと恵まれているんだ”と思いましたね。
次は『ガラスの仮面』。学生の時から大好きで、友達に1日4冊借りてはその日のうちに読んで、翌日授業中に返して、ということを続けていました。あと1冊は、初めて本格的に小説に触れたという意味で、筒井康隆さんの“七瀬三部作”。中学校の図書室に『七瀬ふたたび』と『エディプスの恋人』があったんですよ」

― 三部作の二作目と三作目だけがあったんですね。

乾「なぜか一冊目だけがなくって。多分、最初からなかったと思うんですけど、結局卒業までなかったです。私は友達に借りられたからよかったですけど」

―『将棋の子』の名前が出ましたが、将棋はお好きなんですか?

乾「将棋もチェスもルールはわからないんですけど、見るのは好きなんです。昔、衛星放送が始まったばかりの頃は将棋のタイトル戦になると、それぞれの棋士が延々と長考しているところも中継していたんですよね。
当時、私が勤めていた職場は結構ぬるくて、テレビがずっとつけっぱなしになっていて、職員も年配の男性が大半だから、みんな囲碁・将棋が好きだったんです。だから中継があると、仕事中もずっと流しっぱなしで、囲碁だったら趙治勲さんがマッチをぱっちんぱっちん折りながら長考しているところがずっと映ってるんですよ。そういうのを見るのが好きなんですよね。考えている人を見るのが好きなのかもしれません」

―最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。

乾「今回は長編ですが、最後まで読んでいただけたらうれしいです」


■取材後記
 読者をぐいぐいと引っ張る冒険小説の作者とは思えないほど、お会いした乾さんは華奢でチャーミングな方でした。
 本人が「何を書くかわからないのが個性」と語るように、次回作は今作とはまったく異なった作品になるそう。これからも、決まった色を持たない、「どんなものを書き上げるか予想もつかない作家」として、すばらしい作品を書き続けていただきたいです。
(取材・記事/山田洋介)


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