中世の城郭を模した風俗建築(その1:ラブホテル建築の場合)

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JR目黒駅西口から行人坂を下り、目黒雅叙園の前を過ぎると目黒川に架かる太鼓橋に出ます。この太鼓橋は、歌川広重の「名所江戸百景」にも登場する場所なのですが、橋の上から川上側を見ると、中世の城郭を模した建物が目黒川に沿って建てられていて、江戸懐古というよりは、フランスのセーヌ河やドイツのライン河の畔を 連想させる景観が眼前に広がります。
この建物はラブホテルの代名詞ともいうべき「目黒エンペラー」なのですが、その外観上の特徴は、城郭様式を模している点です。


中世ヨーロッパの城郭様式とは、次のような建築要素を持っている様式のことです。
(1)狭間胸壁:
 兵士が身体の一部を隠したままで射撃したり戦ったりするための隙間のこと。
(2)張り出し狭間(はりだしはざま、マチコレーション):
 いわゆる石落としのこと。持ち送り支持構造の間に開いた床の開口部から攻撃者に向かって岩石を落とすための穴
(3)小塔:狭間胸壁の上に、建物の外周に沿って不規則に配置されている円錐形の屋根を頂く構造物のこと。小塔自体にも狭間胸壁や出し狭間が付けられています。
 このような建築要素(上記(1)〜(3))は、城郭様式だけに見られる差異的要素であるため、逆に、(1)〜(3)さえあれば、建物の外観をお城のように見せることができます。(片木篤:まやかしの城−ラブホテル建築論)


そのため、(1)〜(3)のうちの一部が省略されたり、他の建築様式と混在した『お城「のような」外観のラブホテル』も出現しました。上の写真は、千葉県幕張にある城郭風のラブホテルですが、円形の塔が多数配置され、「小塔」の複合体のような建物になっているので、この要素のおかげで、どこから見てもお城「のように」見えま す。
これに対して、「狭間胸壁」は一部の塔に見られるのみで、「張り出し狭間(石落とし)」は完全に省略されています。逆に、城郭様式ではあるはずのないルネサンス様式の欄干がバルコニーや屋根の水平線(写真の左下)に使用されていて、城郭風のようでありながらイタリアンペンション風のような外観となっています。


城郭風の建築様式の事例としては、18〜19世紀のイギリスのピクチャレスク運動において城郭風のゴシック住宅が建設されたことなどがありますが、日本の場合には、これと同様のことがラブホテル建築において出現したという点に革新性があると言えます。




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