企業はソーシャルメディアにどうアプローチすべきか―武田隆さんインタビュー(後編)

写真拡大

 「ソーシャルメディア」という言葉は今でこそインターネットユーザーを中心にすっかり定着しているが、実際に一般的に使われるようになってからはまだ数年しか経過していない。そう考えれば、「ソーシャルメディア」が急速に普及していった様子が見えてくるのではないだろうか。
 この急速に発展するインターネットの世界を12年にわたり分析してきた武田隆氏は、著書『ソーシャルメディア進化論』(ダイヤモンド社/刊)で、ソーシャルメディアとは何か、そして企業のマーケティングとしてどのようにソーシャルメディアを活用すべきかについて語っている。

 前後編2回にわたってお送りしている武田隆氏へのインタビュー。後編となる今回は、企業300社のコミュニティサイトの事例から見つけられたもの、ソーシャルメディアによってマーケティングはどう変わるのか、お話を聞かせていただいた。

◆    ◆    ◆

――(コーポレートサイトの中に「ソーシャルメディア」を設置するという話を受けて)インターネット上で「炎上」という現象が見られます。これは企業のブランドイメージを著しく下げるものですが、企業側はインターネットについてどのように向き合っているのですか?

武田「2つのパターンに分かれますね。1つは、インターネットはネットワークの場所だということが見えている方々です。しっかりと自社の製品のファンを育成して、そのファンの皆さんが自然な形でその製品の感想を別のソーシャルメディアで発言すれば、自然に口コミが広がることを知っているんですね。
もう1つはテレビCMや雑誌と同じ、広告として使ってしまうパターンです。もちろんユーザーにリーチはしますが、今はもう広告だけでは製品を買わなくなっていますよね。それに、このやり方でソーシャルメディアの中に強引に入り込んでいくと、今おっしゃられた『炎上』してしまう恐れもあります。
私としては上手く使えている人とそうでない人、くっきり分かれているように思います。ただそれは、マーケティングのご経験のありなしですとか、業種・職種の関係はありません。年齢も関係ないと思います。日々、ネットワーク化する時代の変化が見えているかどうかだと思います」

――今回上梓された『ソーシャルメディア進化論』では300社の事例を通してソーシャルメディアを使った企業マーケティングのあり方を分析されていますが、その点で気をつけた部分はありますか?

武田「借り物の事例を使わないようにしました。自分で実際に見たものや経験を重要視しましたね。アメリカの事例もあるのですが、日本で通用するとは限らないし、企業一つ一つも多種多様な問題を抱えていますから。
300社の事例を通して気付いたことは、一社も同じ会社はないということです。『企業と顧客のコミュニケーション』という大きなテーマがあるので、大まかに分類できるところはありますが、A会社の事例が上手くいったから、B会社でも通用するということは全くないですね。どこか違いますし、悩みも違います。そこで気をつけたことは、複雑な現状から逃げないことです。12年間向き合ってきたという自負もありますし、自分の足と自分の耳で触れてきた実際の事例を逃げずに描写することで、読者のプラスにつながるのではないかと思っていました」

――企業のコーポレートサイト内でコミュニティを作り上げる場合、自分の企業の強みとなる部分をしっかりつかんでいないと成功しないと思うのですが、そのためにすべきことはなんだと思いますか?

武田「まずはヒアリングですね。企業と顧客が結びつくというのは、喧嘩したカップルが仲直りするようなものですから、まずは相手の言い分を聞くことからはじまります。そして、どのくらいファンがいて、それらのファンはどのくらい意識が高くて、どんなテーマで製品に触れているのか、企業に何を求めているのかということを確認するのですが、そこでは企業に対して色々な意見が出てくるはずなので、それらをレポートにまとめて、PDCAサイクルに落とし込んで、仮説のズレを修正していくんです」

――ツイッターやミクシィの日記を読んでいると、「○○という本が面白い」「△△というお菓子を食べている」といった、商品や消費財を介してコミュニケーションを取る様子をよく見ることができます。これらの事例は個人の自発的な意思による宣伝になると思いますが、このような状況を企業の製品で生み出すために、何かできることありますか?

武田「顧客と社会をつなげていく手助けをすることだと思います。今おっしゃられた『○○という本が面白い』という声は、社会ではなくて友達に向けて発信しています。その声が社会に対して大きな影響力を持つかというと、大きく伝播する可能性はないわけではありませんが少ないと思います。しかし個人が、企業がつくるソーシャルメディアを使って社会とつながっていくということは、十分可能性があるように思いますね」

――では最後に、『ソーシャルメディア進化論』をどのような方々に読んで欲しいと思いますか?

武田「まずはマーケッターの方々ですね。ソーシャルメディアをある程度理解すれば、インターネットでのマーケティングが面白くなりますよ。恋をするようにマーケティングができるはずです。それはどういうことかというと、今まで見えなかった顧客が見えてくるんです。そして、多種多様な顧客の個性が見えてくるので、調査とプロモーションを同じレベルで出来るようになります。これまででしたら、調査部と宣伝部は分かれていましたから、同じ顧客に対してアプローチしているとはいえ全く別の指標を使っていたんですね。でも、ソーシャルメディアを使ったマーケティングを行うと、調査と宣伝をつなげてできるようになります。そして、今まで不可能とされてきた様々なことを実現できる機会を手にすることが出来るはずなので、マーケティングの楽しさを実感して頂きたいですね。
続いて経営者の皆さんです。企業と顧客の関係を新しくするというテーマですから、経営されている方には読んで欲しいですね。そして、最後に消費者の方々。どんな方も消費者としての一面を持っていますが、企業と消費者がつながりあうことで生まれる新しい社会の姿を感じていただけると思います」

――その未来の社会の姿とはどのようなものだと思いますか?

武田「それは、組織、企業を媒介して社会とつながる、前向きでホットな世界です。
『Social』は『社会』と訳しますが、『社会的メディア』だと硬い感じがしますよね。福沢諭吉は『Social』を『人間交際』と訳したので、『人間交際メディア』と言ってもいいのですが、『社会』や『人間交際』よりはフランクな『社交』という言葉を借りて、『社交的メディア』っていう風に言うと一番イメージが近いかも知れません。
社会は私たちの力で変えられる。個人と個人の結びつきだけでは弱いかも知れませんが、組織という力を借りて、より大きく変えられるというダイナミックな未来の社会をこの本を感じていただけるのではないかと思います」

(了)



【関連記事】 元記事はこちら
企業はソーシャルメディアにどうアプローチすべきか―武田隆さんインタビュー(前編)
儲かる会社・売れる商品の共通点
マーケターは忙しい消費者にどうアプローチすべき?
電通で語り継がれているアイデア発想法を紹介