テキスト系妄想メディア「ワラパッパ (WARAPAPPA )」より

一瞬の判断ですべてが変わってしまうことがあります。

そしてそれはたいてい、後から「あのときこうしていれば……」と思ってももう取り返しがつかないことがほとんどです。

そういえばこんなことがありました。

僕が高校生の頃です。

ちょうど冬休みに家族旅行をしようという計画がありまして、家族は2泊3日の旅行計画を練っていました。

「お前はどこがいい?」

と聞かれた僕は、少し考えて答えました。

「俺は残るよ。受験勉強をしたいから」


もちろん嘘です。


受験勉強などさらさらする気のなかった僕の頭にあったのはただ一つ。

「家族が全員出払えば、その間ゲームやりたい放題じゃん!」

ということでした。


高校生といえばもうそこそこ大人だと思いますが、当時の僕の精神年齢は明らかに小学生くらいで止まっており、何かというと「どうにか親の目を盗んでゲームをやれないか」ということばかり考えていたのです(うちはゲーム禁止だったので)。


とにかくまあ「受験勉強」というキラーワードは見事に親にヒットしたようで、「そうか、それなら仕方ないな」と親はすっかり納得した様子で弟と妹を連れ旅行に出かけていったのでした。


さあ、そこから僕の動きは速かった。


車を発進させるエンジン音が聞こえるやいなや、僕はものすごいスピードでプレイステーションを取り出し、てきぱきと配線作業を進めていきました。明らかに学校に遅刻しそうな時よりも動きが速い。何しろこんなチャンス、もう二度とこないかもしれないのですから……。

僕の頭の中にはすでに、この3日間の計画、すなわち“ご飯と風呂以外はすべてゲームに注ぎ込む”というプランが完成していました。今思うと明らかに健全な男子高校生の冬休みの過ごし方ではない気がしますが、そんなことは当時の僕にはどうでもよかったのです。

その僕が当時ハマっていたのは「ダービースタリオン」(通称:ダビスタ)という競走馬育成ゲームでした。

これは牧場の経営者になり、牝馬に種牡馬を種付けしてサラブレッドを育成していくシミュレーションゲームで、実際の競馬をリアルに再現した育成やレース、やりこめばやりこむほど強い競走馬を生み出すことができる廃人仕様のゲームシステムが高い評価を受けていました。

当時の僕もこっそり遊んではいたのですが、何しろ親が家にいると思うようにゲームが進まない。もともと時間をかけて遊ぶことを前提にしているので、どこかでまとまった時間が必要だなということは強く感じていた矢先のビッグチャンスだったわけです。

ということで、さっそくダビスタをプレイステーションにセットしゲームをスタートした僕は、当初の予定通り、いや予定以上にすべてをダビスタに注ぎ込み、それから3日間ほぼ不眠不休・飲まず食わずでゲームを進行させたのでありました。

——さて、このダビスタやりこみ計画を立てていたとき、僕はこのゲームのためにあるものを購入していました。

それは「片手コントローラー」と呼ばれる代物で、通常両手で操作しなければならないプレイステーションのコントローラーのボタンを、片手で持てる大きさに集約したまさに画期的なデバイスでした。

この片手コントローラーさえあれば、こたつに入って横になった状態でも片手一本でゲームを操作できる——そんな風に当時の僕は考えたのです。


そして3日目、最終日のことでした。


ほぼ休みなしでダビスタを続けていた僕は、朦朧とした意識の中で、それでも片手コントローラーを握りしめてプレイを続行していました。

こたつで横になった状態なので、ちょっと気を緩めると睡魔が襲ってきます。

しかし操作はもう手慣れたもの。この3日間の不眠不休の訓練により、もはや目をつぶった状態でも操作できるほどに熟練していた僕は、意識の半分を眠りにつかせてもう半分でコントローラーを操っていました。

ちょうどその時行っていたのは、新サラブレッドの種付けです。

ダビスタでは種付けしてから1年ほどでサラブレッドが誕生するのですが、その誕生時の能力でほぼその後の活躍が予想できるため、最初にどれだけ高い能力のサラブレッドを生み出すかが攻略の鍵となります。

しかしその能力値はランダム性が強いため、効率よく攻略していくためには仔馬に思うような能力が備わっていなかった時点で一旦ゲームをリセットする必要があり、この3日目はほぼそのリセットの作業に時間を注ぎ込んでいたのでした。

そしてもう何度目かわからないリセットを、目をつぶった状態で行った僕は、そのまま片手コントローラーを操作して、タイトル画面からロード画面を呼び出し、セーブデータをロードしようとしました。

もはや画面を見なくても、

「下」「下」「○」「左」「○」

と押せばセーブデータをロードできることはわかっていたので、僕はこれまで通り、目をつぶった状態でその操作を無意識に行いました。

が、

手がすべったのでしょうか。

それとも神のイタズラだったのでしょうか。

僕は、

「下」「下」「下」「○」「左」「○」

と、「下」ボタンを一つ余計に押していたのです——。


ここで上記の動作の意味を一応説明しておきますと、

最初の「下」「下」はロード画面でセーブデータを選ぶために押しており、次の「○」でロードするデータを決定し、さらに「はい」「いいえ」の二択が出るため、「左」を押してカーソルを「はい」に合わせ、最後に「○」で決定するというプロセスを実行していたわけです。


ところが、「下」が一つ増えるとどうなるか。


ロード画面でセーブデータを選ぶ際、「下」を3回押すと一番下にある「データ消去」にカーソルが合ってしまうのです。


もちろんそれを押してしまっても、すぐにデータが消えるわけではありません。


「はい」「いいえ」の選択肢が出て、さらにカーソルはデフォルトでは「いいえ」に合った状態になっているので、そうそう間違えて消してしまうことはないのです。


しかし——。


僕は、その二重三重の防壁をかいくぐるように、「下」「下」「下」「○」「左」「○」と流れるようにボタンを操作してしまったのです。


(んっ?)


目をつぶって半分眠りに落ちていた僕でしたが、さすがに何か嫌な予感が脳裏をよぎりました。


(何かが——ズレた)



危機を告げる早鐘が頭の中でガンガンと鳴り響きます。



(いつもなら聞こえるはずの、牧場の音楽が聞こえない——)



急速に意識が活性化し、シナプスに電流が走ります。



(まさか——)



目を開けた瞬間、そこには僕のもっとも見たくない光景が広がっていました。



約1000時間を費やしたデータが——真っ白になっていたのです。



(ああ……!)


声にならない声が喉の奥からせり上がってきました。



(ああああ……!)



あの時、あの「下」をたった一度多く押しただけで、世界のすべては変わってしまった。

たった一つの、一瞬の判断の誤りが、すべてを狂わせてしまった。


だから皆さん、どうかあの当時の僕の悲劇を二度と繰り返さないように、もうこれ以上大地に涙がこぼれ落ちないように、くれぐれも一瞬の判断を大切にしてください。時にそれは、生死をも分けることがあるのですから……。


あの出来事以降、トラウマとなって使われなくなった片手コントローラーは、今も実家の押し入れにひっそりと眠っています。



さながらそれは、あの日消えてしまったセーブデータの墓標のごとく——。








……みたいな感じでちょっと良い話っぽく締めようと思ったんですが、ほぼ全部書き終えたところで間違えてこの原稿を保存しないまま閉じてしまい、またしても悲鳴を上げてしまいました。

あれから10年以上が経ちましたが、どうやら判断力はまったく向上していなかったみたいです。

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この記事の元ブログ: 一瞬の判断がすべてを変えてしまうことがある


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