郵便事業株式会社の某支店、集配営業課に勤務しながら英語を勉強、わずか2年弱でTOEIC980点を叩き出した“奇跡の郵便配達員”が存在する。瀧野一(たきの・はじめ)さん、51歳だ。

 今から5年前のこと、勤務先の郵便局に貼り出された「外部職員募集、応募の条件はTOEIC730点以上」と書かれた掲示を見た瀧野さんは、「今は社外公募の条件にすぎないけど、いずれ人減らしをするときも、英語を条件にするつもりなのでは?」と“失職の不安”に駆り立てられ、英語学習を開始する。

 お金をかけない方法として考えたのが、インターネットサイト『NHKワールド』にある英語ニュースをひたすらリスニングすること。そして、聴いたニュースのページをプリントアウトし、わからない単語をチェック、それを大学ノートに貼るという作業を毎日繰り返した。「タダだから」という理由で始めた勉強法だったが、これがTOEICで問われるリスニング力を鍛え、語彙(ごい)を増やすことに有効だった。

 また、瀧野さんは約2年間で17冊のTOEIC対策本を購入している。その教材利用術は「買った本のポテンシャルをとことん引き出す」というもの。

「一度で解けない問題は、当然、解けるまでやる。解けた問題も文法などの理解を深めるために繰り返しやる。そして完全に理解できたら次の本を買うのです。数ある教材のなかで、最も重要なのが『TOEICテスト新公式問題集』(いわゆる過去問)。自分の弱点=強化すべきポイントがわかるし、TOEIC の出題には傾向があるので、過去問を繰り返しやることで確実に力がつきます」

 そして勉強を開始してわずか8ヶ月、瀧野さんは初めてのTOEIC試験で795点をとる。目標だった750点を軽くクリアしてしまったが、それでも英語の勉強をやめなかった。当時のことをこう振り返る。

「あるとき、社会人対象のTOEICセミナーに参加してみると、私以外の参加者は名だたる大企業の社員ばかりでした。自分は落ちこぼれだと思っていたのですが、こういう立派な人たちも英語で苦しんでいるのかと思うと変な気持ちがしました」

 そして、英語の勉強を始めて2年弱、ついに980点を叩き出した。瀧野さんは、今春に郵便配達員を退職、現在は外国人に日本語を教える教師の資格取得を目指している。

「TOEIC980点は自分にとって大きな自信になりました。私には人とのコミュニケーションが不得意だというコンプレックスがずっとあり、なんとかそれを克服したかった。将来はコミュニケーションに関わる仕事ができたらいいと思います」

 TOEIC980点で、英語力だけでなく、“自信”という財産も手に入れることができたのだ。

(取材/頓所直人)

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