東日本大震災をきっかけに、私たち日本人が目の当たりにしたことが二つありました。一つ目は、失意のどん底でも取り乱さない被災者や、寝食を忘れて災害救助に励む自衛隊員たちの存在。彼らの姿は世界中で賞賛されました。

 二つ目は、危機に右往左往する総理大臣、肝心なところで病床に伏せる東京電力社長をはじめとする、日本のリーダーたちの醜態。彼らの姿は、世界中で嘲笑されたと言います。

 現場の優秀さ、勇敢さが際立つほど、エリートたちの質の低さが露呈した今回の大震災。「そのあまりに鮮明なコントラストは、日本人に希望と絶望を与えた」と、東洋経済新報社の雑誌記者・佐々木紀彦氏は言います。「日本はなぜこうもリーダーに恵まれないのか――。今われわれは、こう自問自答せざるをえない状況にある」と。

 優秀なリーダーを生んでいる国として、しばしば米国や英国の名前が上がります。しかし、両国の国民は日本の国民に比べてそんなに優秀でしょうか? 佐々木氏は、「平均的な教育レベルは日本が上でしょうし、人間としての知徳においても差はない」と自著『米国製エリートは本当にすごいのか?』で述べています。ではなぜゆえに両国の指導者のクオリティはこうも違うのでしょう。

 米国の有数なエリート輩出校であるスタンフォード大学のサマープログラムに、大学2年生の時に参加した佐々木氏は、広大なキャンパス、英語の授業、現地学生との交流などを通してスタンフォードに魅せられたそうです。そして、「いつかこの場所に返ってくる」と固く誓い、28歳の時に休職して再び大学院生としてスタンフォード大学で学びました。

 しかし、社会人経験を積んで物事を冷静に眺めることができるようになった佐々木氏の目に映ったスタンフォードは、八年前とはまったく別物。その二年間の留学生活を通じて、「米国の大学教育は素晴らしいと、世界中でいわれているけど、どこがそんなに素晴らしいのだろうか。一流大学の学生は、本当に優秀なのだろうか」と漠然と抱いていた疑問に対する、自分なりの答えを見出しました。

 その結論は、「感嘆するところもあるが、そうでもないところもある。ただし、日本が学ぶべきところは数多い」というもの。

 そして、米国や英国のリーダーのクオリティが高いわけは、「エリート育成システム」にあると紹介しています。日本には、エリートを選抜し、教育し、競争の中で鍛え抜くシステムがなく、リーダーの出現を天に任せているから継続的に良質なリーダーを生むことができないのだと。

 日本では「エリート」ときくと、鼻持ちならない秀才野郎を思い浮かべる人の方が多いかもしれませんが、本来のエリートとは、国民にとってありがたい存在。平時に特権を与えられる一方で、有事には進んで国のために命を捧げてくれるのが本当のエリートの姿。しかし、日本でここまでエリート嫌いが広がってしまったのは、「自らは危険に身をさらさず、特権だけを享受しようとする"似非エリート"が幅を利かすようになってしまったから」(佐々木氏)。

 米国のエリート大学での留学経験を踏まえ、日本人が米国のエリート育成システムから学ぶべきもの、学ぶ必要のないものの両方を詳しくまとめた本書。この本を読んだ若者が、日本オリジナルのエリートとなって、日本のリーダーになってもらえないものか。そう願わずにはいられません。



『サンデル教授のような授業は例外? 米国のエリート大学の本当の姿』
 著者:佐々木紀彦
 出版社:東洋経済新報社
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