苫米地秀人博士

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「もし寄付するのが楽しかったら、あなたは洗脳されて騙されている可能性がある」

と話すのは、過去にはオウム真理教の信者を脱洗脳し、現在では書く本のほとんどがベストセラーとなる脳機能学者・計算言語学者の苫米地英人博士だ。「東日本大震災」を機に、日本でも寄付への関心が強まり、街角からコンビニまで、いたるところで様々な人が募金活動を行っている。一方、寄付を悪用する団体があるという噂もあるが、果たしてそれは本当なのか、苫米地博士に伺った。


――寄付を楽しむことは間違っているのでしょうか?

間違っているかどうかいう以前に、寄付を楽しい行為に見せて稼ごうとする集団がいて、そういう人たちに騙されてはいけない、ということだね。

日本で著名な慈善団体でさえ、会計報告を見れば実際に利用されているお金が非常に少ない団体があって、寄付金の多くは職員の給料や設備に使われている。つまり彼らはビジネスをしているだけなの。

世界中のNPO・NGOが寄付金で儲けていて、海外に本部がある世界的なNGOにビジネス志向が多い。そういったNGOの本部は一等地のオフィスにワンフロア借りて、ハーマンミラーの家具を置いている。だとすれば寄付がどこに使われているかわかるよね(笑)。

先進国では寄付をすると免税になる国が多いから、成金NPOが沢山あって問題になっている。酷い団体なんて一機40億円のプライベートジェットを3機買っている。避難民を運んでいるわけじゃなくて、重役の移動に使っているだけだからね。


――そういった団体は全員がビジネスだとわかってやっているのですか?

わかってない。騙されているから。自分たちは良いことをしていると思って、重役の私腹をせっせと肥やしている。これって実は、カルト教団と同じ構造なんだよね。

最近実際に私の知り合いで騙された人がいて、とある県の老人介護のNPOでボランティアをやっていたんだ。彼は本当にあくせく地元の老人をお風呂に入れて働いている。それ自体は良いことだよね?

でも彼はボランティアでやっているから、もちろん無償なんだよ。でもそのNPOは国から補助金をもらっていて、その金は幹部のポケットに入っている。ということは現場の人は奴隷としか見られてないんだよ。

こういった儲かる構造に目をつけた人たちが今せっせと慈善団体をつくっている(笑)。
無償でNPOの現場で働いている人達は、渋谷の駅で花とか壷売っている人と同じ状態だよ。壷は原価の10倍や20倍で売っているわけだけど、本人たちに入ってくる金はないからね。


――そういった悪意ある団体ばかりではないですよね?

もちろん、元から良い団体もいて、そういった人たちはちゃんと収支を公開しているから確認したほうがいい。公開していなければ怪しいし、公開していても、堂々と寄付に使っていない団体もあるから注意したほうがいい。

あと、会計報告で「いくら寄付しました」といっていても、「どこに」寄付したかが曖昧な場合も気をつけたほうがいいね。寄付先が書いてあったとしても、寄付先もグルの場合があるからちゃんと調べたほうがいい。

あと、自分の働きだと一般的にどれくらいの給与になるかを考えた方がいいよ。無償といっても、その労働の給与分、団体は得をしているわけだから。それを差し引いても団体が私欲に走っていないか確認したほうがいいと思うよ。


――なぜ慈善団体にこういった悪意ある団体が増えるのでしょうか?

だって、社会的に良いとされる事の方が当然騙しやすいからだよ。カルト教団も、悪の教団と銘打っている所なんてないよね。みんな「より良き社会を作ろう」ってことで騙されているんだよね。

だから悪意ある慈善団体は、感動の架空のストーリー作って、社会に良いことって思い込ませているだけなんだよね。

たとえば貧困者向けの融資制度であるマイクロバンキングも、とある団体では、お金を借りたい人は、残り4人の同志を連れてきなさいって言うんだよ。その4人のうちの誰かに代表で貸し付けるから、あとは4人で分担して、頑張って返しなさいよって言う。かっこいい言い方だよね。でもよく考えてみると、一人借りるのに4人全員が連帯保証を負うんだぜ。それはアコギでしょう。

「貧困者でも融資します」という社会的に良く聞こえる話が、自分の友達まで巻き込んで借金漬けにしちゃう事態にもなりかねない。こういった事にならないために、社会的に良く聞こえる話ほど注意した方がいいんだよ。あと、収支のなかで寄付金の大半を広告費に使っている団体は悪質だよね。感動のストーリーで騙そうとしているだけだから。


――では、どういった寄付なら価値がありますか?

自分のお金を他人のために役立てたい人は、寄付する以前に、税金を納めるべきだよね。

税は国家のために使われているのが大前提なんだから。税金を納めない代わりに、ある団体にお金を入れるってことは、その団体の方が日本国よりも金をうまく使えると信じているんだよね?

だったら日本も無駄遣いしているけど、そのNPO、NGOがそれ以上無駄遣いしていないかを確認した方がいい。しかし残念ながら無駄遣いというより儲けに走っている団体も多い。

税金納めた後でどこかに寄付をしたいなら、地元の国立大学に寄付するのがオススメだね。一部の公益活動に関する寄付については、贈与税を取らないからね。せっかく寄付するなら、贈与税取られないで、あげた分全額相手に行くほうが良いよね。

私自身、自分が応援したい研究をしている大学へはピンポイントで寄付している。つまりどこかの団体に委託せずに、自分が寄付したい所へピンポイントで寄付するのも良いと思うよ。


――チャリティイベントについてはどう思われますか?

会計が明快でないイベントが多いよね。寄付金からイベントにかかった経費を引いて、利益分だけ寄付するのっておかしいよね?もし集まった寄付金の多くが、登壇した芸能人やミュージシャンの出演費や経費に消えているのなら、主催者と出演者はチャリティイベントで稼いでいるだけだよね。

例えば私が今月開催したチャリティイベントでは、東日本大震災に対する任意額の義援金を各県の寄付口座に振り込んで、「振り込み控え」を会場にもって来るだけで参加できるようにした。

つまり、私の所を寄付金が経由しないので、儲けようがないし、イベントの運営費は私が自腹で払っている。会計が明快でしょ?


――そういった明快な寄付方法は、なぜあまり見かけないのでしょうか?

だから、会計が怪しい所が多いからだよ(笑)。
あと、寄付団体を通じて募金すると手数料が引かれちゃう場合があるのと、実際に寄付金が現地に届くまで時間がかかってしまう場合がある。

あと、私は震災後に仙台に住民票を移しているんだけど、これも前言ったように、税金を払うほうが下手な寄付より効率がいいからなんだよね。もっと言えば、アメリカでは各州の法律が異なるように、日本でも各県で法律が異なる「連邦制」にして、被災地を「経済特区」として銀行などが投資しやすくするなど、規制を場所によって変えればいいと思う。

ヨーロッパもユーロ経済圏で連合しているから、ある意味自分の好きな制度の国に住める。実は日本くらいなんだよね、先進国のなかで、自分で好きな制度の所に住めないのは。


――寄付する際の心構えなどはあるのでしょうか?

寄付するときは、自分が嬉しいから寄付しているんじゃないかってことを確認したほうがいい。例えば俺だって、絶対このギターが欲しいって時に、大学の若手の後輩たちが育つなら仕方ないかと思って、ギターを泣く泣く諦めて寄付しているくらいだもの。

寄付って本来は苦しい事だよ。それが嬉しい、楽しいのなら疑ってみた方がいいね。


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■苫米地英人氏プロフィール
脳機能学者・計算言語学者・計算機科学者・離散数理学者・認知心理学者・分析哲学者
ドクター苫米地ワークス代表、コグニティブリサーチラボCEO、角川春樹事務所顧問、南開大学(中国)客座教授、カーネギーメロン大学コンサルタント・CyLab兼任フェロー
学位:カーネギーメロン大学博士(Ph.D.)[論文委員会 ハイミーカーボネルCMU、冨田勝CMU(現慶応大学)、スコットファールマンCMU、デビッドエバンスCMU、アレクスワイベルCMU、辻井潤一UMIST(現東京大学)]