■「攻撃は最大の防御」を地で行く広島の戦い

「攻撃は最大の防御。得点をすることがベストなディフェンス」と公言するペトロヴィッチ監督の哲学は、今季で広島を率いて6年目となるが一度もブレた事がない。

そんな監督が指揮するチームのディフェンダーには、常に多くの能力が求められてきた。広島のディフェンダーを想起した場合に槙野智章(1.FC.ケルン)を思い浮かべる方も多いだろうが、ボールポゼッションをスムーズに行う足元の技術やパスセンスや、機を見た攻撃参加で数的優位を作る攻撃的な能力は、広島のディフェンダーには欠かせないタスクだ。純然たる守備能力だけでは広島の守備陣は務まらない。

今年広島に加入した水本は北京五輪代表の主将も務めた経験豊富な選手だが、「新しいサッカーを習っている」と目を丸めていたのが印象的だった。しかし、「すごく新鮮で楽しい」とも話していた。ピッチに立つ11人には専門的な役割が与えられてチームは構成されるが、サッカーの基本は11人で攻めて11人で守るスポーツ。ペトロヴィッチ監督はその醍醐味を選手たちに提示している指揮官である。しかし、そんなペトロヴィッチ監督がずっと重宝してきた一人のディフェンダー・盛田剛平には、また違った信頼を指揮官は置いている。

■自らディフェンダーへの転向を申し出た盛田

盛田は191cmの体格を活かした大型FWとしてプロの門を叩いた後に、浦和、大宮を経て広島に在籍し、07年から自らDFへの転向を申し出た。ペトロヴィッチ監督が指揮を執り始めた時はすでにDFとしてプレーしており、ペトロヴィッチ監督は「剛平がFWをやっていたとは信じられない。彼は生まれながらのディフェンダーだ」と笑い飛ばしていたこともある。盛田は決して後ろから攻撃を組み立てるセンスに優れているわけではなく、局面を打開するパスや強烈なミドルシュートを打つ選手でもないが、堅実な守備と圧倒的な高さを有しており、ペトロヴィッチ監督は常にチームを構成する上で欠かせない一人として信頼を置いている。

槙野や森脇良太の台頭によってベンチを温める時期もあったが、相手がパワープレーを仕掛けてくる試合終盤に盛田を“クローザー”として送りこんで勝利の方程式を築いていた。昨季は負傷により一年間プレーできず、指揮官は常々不在を嘆いてきた。

一年以上のリハビリを経ての復帰戦となった今季の第11節・横浜FMでの起用は、その厚い信頼を示したモノだった。盛田は全体練習に合流するまでには回復していたが、まだ一年以上のブランクを抱え練習試合で実戦感覚を確かめることができていない状態だった。しかし、「相手が5番(キム・クナン)を入れてくると、状況が難しくなるのは目に見えている」。キム・クナンのパワープレーを危惧していた指揮官は盛田にベンチ入りを求め、盛田も「すべての準備は万全ではないですけど、与えられる役割は分かっている。出番が来たらそれを果たしたい」と承諾。試合はまさに指揮官が危惧していた通りの展開となり、ピッチに送られた盛田はキム・クナン封じを完遂した。そして試合後、ペトロヴィッチ監督は「私は彼に感謝したい。14カ月近く試合から遠ざかっており、練習試合もしない状況で交代で入ってくれた」と感謝した。

もっとも、ペトロヴィッチ監督はチームを構成する上で重要なことを、こう話している。
「遠藤(保人・G大阪)が10人いてもダメだ。盛田みたいなタイプの選手も必要になってくる。走って球際を戦う選手がいて、クリエイティブな選手がいて、サッカーは組み合わせが重要だ」。選手には様々な特徴がある。それらを組み合わせて特徴を最大限に引き出すことでチームは機能するものだ。