仕事がデキないアナタのためのペダンチスト養成講座(1)

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 自分にないものを持っている人には一目置いてしまうのが人間というものでございます。
 仕事一筋でやってきた仕事人間は、教養にコンプレックスを持ち、仕事のできない教養人は、その教養をタテに自分を慰める。これが世の常、神学的に言うなれば人間界の摂理です。
 しかし当然ながら、仕事などデキる人よりデキない人の方が多いもの。
 デキる人には言うことはありません。今後とも体に気をつけて頑張っていただきたい。
 では、デキない人はどうするべきか、デキるように努力する?いいえ、今デキない人が努力したところで、元々デキる人に叶うわけありません。
 そうです。仕事のできない「ビジネス界の落ちこぼれ」はデキる人と仕事で張り合うのではなく、デキるヤツらが到底知りえないような、マニアックで衒学趣味な書物を読みふけり、その知識を彼らの前でそれとなくひけらかすことで、彼らを内心で嘲笑い、対抗するべきなのです。

「衒学的な教養を武器に、仕事バリバリの連中に脅威を!」

 そんな考えで始まったのがこの企画「仕事がデキないアナタのためのペダンチスト養成講座」(誰ですか、卑屈だなんて言うのは?)記念すべき第1回の今回はトマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』(筑摩書房/刊)を取り上げます。

■多方面の文化へと知識を深められるピンチョン作品
 大学で英米文学を専攻していた方や、普段からよほど本を読んでいる方以外は聞き慣れない名前かと思いますが、トマス・ピンチョンは米国の作家。
 このピンチョン、とにかく博学な作家で、化学・物理学や歴史、ポップカルチャーまで底知れない知識を持ち、作中に散りばめているのが特徴。これらの知識に気をとられすぎると話の流れを見失うということで、彼の作品はとても難解だと言われております。

 その中で『競売ナンバー49の叫び』は比較的読みやすい作品だと言えるのですが、ある程度翻訳文学に慣れていないと読み進めるのは困難。しかし困難な書物を、易々と読んで(読んでいるふりをして)仕事一直線の連中に知識をひけらかすことこそ、仕事のできないペダンチストの生きる道!
 
 この本の物語は、主人公である主婦のエディパ・マーズが、かつての恋人である大富豪・ピアス・インヴェラリティの遺産管理執行人に指名されていることを知る場面から始まります。そして彼女は、彼の遺品のひとつである「偽造切手」から、「トライステロ」という謎の組織の存在を知ることに。
 この「トライステロ」、既存の郵便組織に対抗して秘密裡に継続している民間郵便配達の組織なのです。そんな折、エディパは「トライステロ」を扱ったと思われる芝居を見て、彼らの正体を探り始めますが、やがて自分が本当に謎に迫っているのか、それとも誰かに弄ばれているだけなのかわからなくなっていく、というのがお話の流れです。
 
 この作品を取り上げたのにはれっきとした理由がございまして、この作品を読むことで絵画や音楽、歴史など、別ジャンルの芸術への知識を深められるのです。
 例えば、本の中の脚注で明らかにされているのですが、物語が始まる前のエディパは平凡な主婦で、日々の生活に対して「塔の中に閉じ込められている」というイメージを持っています。ピンチョンはこの状況をレメディオス・バロの『大地のマントを刺繍する』という絵画のイメージを下敷きにして描いております。
 また、作中に出てくる一連の郵政史に関するマニアックなエピソードの中には、実在した人物や出来事も数多く登場することもポイント。特に神聖ローマ帝国時代も活躍した郵便組織「トゥルン・ウント・タクシス家」についての記述は、知っておくと教養人としてハクがつくことは間違いございません。

 ビジネスの世界は「仕事のデキない人」には辛い場所。ましてや一緒に働く人も気の合う人ばかりではなく、厳しい上司も理不尽な先輩もおられます。
 しかしこの本を読んでおけば『どうせテメーはピンチョンも知らねえんだろ。』と内心蔑むことで、彼らのお説教をやり過ごすこともできるというもの。

 この『競売ナンバー49の叫び』が気に入ったようなら『ヴァインランド』『重力の虹』など、他のピンチョン作品も読んでみることをおすすめいたします。
 ペダンチストへの道は始まったばかり。もっともっと難解かつ複雑な本を読破し、「知識ばかりひけらかしやがって、鼻持ちならねえ野郎だ!」と「デキる奴ら」に煙たがられるような、立派なペダンチストを目指しましょう。
(新刊JP編集部/山田洋介)


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