■ なでしこフィーバー?

初めて「世界一」となったなでしこジャパン。アメリカとの決勝戦は、午前5時から試合終了までの平均視聴率が21.8%と驚異的な数字を残した。日本に帰国すると「帰国会見」が生中継されるなど、日本中に「なでしこフィーバー」が吹き荒れている。

ここまで「女子サッカー」が盛り上がってくると、普段から、もう少し「なでしこジャパン」や「なでしこリーグ」をカバーしておけばよかったという後悔の念も生まれてくる。正直、女子サッカーに関する知識は「にわかレベル」の域を出ないので、「Inacってどういう意味なの?」とか、「デュイスブルクってどれくらい強いの?」とか、細かいことを聞かれても困ってしまうほどである。

「にわか対非にわか」の戦いはどんなときにも起こるが、玄人筋の人は、もっと女子サッカーに関する知識もあって、もっと大会も楽しめたのだと思うと悔しい気持ちも生まれてくる。次の五輪までには、もっと頑張りたいところである。

■ なでしこフィーバー?

その「なでしこジャパン」が、これだけ巷で人気になった理由を考えると、決勝トーナメントでドラマチックな試合が続いたこと以外に、恵まれない環境にも関わらず健気に頑張っている姿が共感を呼んだものと思われる。

確かに、となりのクラスにいそうな少年っぽい選手や、普通の肉屋で「100g120円」の肉を買って帰るような選手の方が感情移入しやすい。これまで、全く「女子サッカー」を取り上げてこなかったワイドショーまでが、こぞって「なでしこ」を取り上げていることには対しては違和感を感じないわけではないが、取り上げてくれるだけマシであるとも考えられる。

このフィーバーが、ずっと続くはずもないので、なでしこメンバーも、すぐに「あの人は今???」的な存在になるのかもしれないが、大事なのは、フィーバーの間に、末永くサポートしてくれる「ファン」、「マスコミ」、「企業」を見つけることである。そういう人やそういう企業が見つかれば、後々振り返ったとき、このマスコミの騒ぎも肯定することもできるだろう。

■ 女子サッカーの環境?

ということで、W杯を制したため、今後の4年間は「世界王者」という肩書きを背負ってプレーすることになる。競技レベルでは、世界のトップに近づいたことが証明されたが、その一方で、日本の女子サッカーの環境は恵まれたものではない。なでしこは「世界一」になったが、女子サッカーの環境は「世界トップレベル」とは言い難い。

改めて言うまでもなく、国内の「なでしこリーグ」は厳しい状況である。震災の影響もあって「東京電力マリーゼ」は活動を休止していて、リーグ戦は不参加になっていて、活動が再開されるかどうかも分からない。また、INAC神戸のMF澤クラスの選手でも、その実力に見合った十分なサラリーを得ておらず、アルバイトをしながらプレーを続けている選手も多いという。

「厳しい状況を乗り越えて世界一になったこと」が、視聴者の感動を呼んでいるのも事実であるが、少しでも良くする努力をしていかないと、継続して「世界一」を目指すのは難しくなる。

■ 女子サッカーの環境?

男子サッカーと比べるとボーナスも桁違いで「違い」は明らかであるが、一方で、「他の多くのスポーツ」と比べると、「女子サッカー」(特に「女子の日本代表チーム」)が恵まれているのも事実である。

今大会は、FW安藤、FW永里ら海外でプレーする選手も多かったが、彼女たちの海外移籍を後押ししているのが日本サッカー協会で、彼女たちは、クラブから得られるサラリーの他に、日本サッカー協会から「日当」も得ている。

海外遠征する費用も、日本サッカー協会が出しているが、もっと認知度の低いスポーツをしている選手は「手当てが出ない。」どころか、「遠征費」すら自費で大会に参加している人も多い。それらと比べると、待遇として恵まれているともいえる。

■ 女子サッカーの環境?

問題というか、課題と言えるのが、女子サッカーの遠征費やサポート費用のほとんどが、男子サッカーで得たお金であるという点である。今大会の結果を受けて、「女子サッカーに比べて男子サッカーは・・・。」という声も挙がってきているが、これは完全に「的外れ」な意見で、事情を知っている人であれば、そういった考えは浮かんでこない。

したげって、女子サッカーが変われるか or 変われないか、今が大きなチャンスのときである。女子サッカーの場合、興行で上手くいっているケースがほとんど例がないといえる状況なのでハードルは高いが、世界を制して、メディアの注目度も上がっていて、個性的な選手も出てきている、こういうときに、なでしこジャパンならびになでしこリーグを変えていくことができるか。今は、女子サッカーの未来の分岐点に立っているともいえる。

普通に考えると、全く男子サッカーに依存しなくても済むというところまで持っていくの難しいが、国内リーグがある程度の盛り上がりを見せていて、代表戦でも「1〜2万人程度」の観衆が集まるようなところまで持っていかないと、いつまでたっても、男子サッカーにバックアップしてもらっているという状況は変わらない。

今大会で、多くの人が女子サッカーに可能性を感じて、素晴らしさを体験しているので、週末から始まるリーグ戦や秋に行われるロンドン五輪予選は、女子サッカーの未来のかかった重要なものとなるだろう。選手や関係者の方は、今まで以上の頑張りが求められるが、もちろん、選手や関係者だけの頑張りでは難しい。

今大会のなでしこ達から何かを受け取った人は、些細なことでもOKなので、1つでも、2つでも、彼女たちやクラブをサポートしてもらえたら・・・と思う。「試合を観に行く」あるいは「練習を観に行く」といったことももちろんであるが、なでしこを支えているスポンサー等にお金を落とすというのは、1つである。



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