日本で、そして世界中で、今なお高い人気を誇るウィリアム・モリス(William Morris,1843-1896)であるが、実は「MORRIS&Co」というブランド自体、一時消滅してしまったということをご存知だろうか。
1896年のウィリアム・モリスの死去から44年後の1940年、モリス商会は自己破産してしまう。その背景には、アールヌーボーからアールデコへと、時代のデザイントレンドが大きく変化したこと、また多くの若者が戦死あるいは戦病死した第一次世界大戦によって、賃金の安い若年労働力が減少したことがあった。さらには、1939年には第二次世界大戦が勃発し、壁紙に用いる用紙やインクのコストが急騰したことも、モリス商会の経営を圧迫した要因だった。そのモリス商会を買収したのが、現在「MORRIS&Co」ブランドを展開するサンダーソン社である。当時のモリス商会は、唯一壁紙だけは外注生産していたが、その会社がサンダーソン社の傘下だった関係上、モリス商会が破産してしまえば損失だけが残るということで、壁紙生産の権利やブロック、生産台帳の他、「MORRIS&Co」のロゴも含めて破格の値段で買い取ったという。しかし、当時のサンダーソン社は、自らのブランドを広めることが第一義で、また「MORRIS&Co」自体、いわば流行遅れといった状況もあったことから、「MORRIS&Co」ブランドは打ち出さず、以後半世紀近く、ウィリアム・モリスのデザインは、あくまでサンダーソンブランドの一部として扱われることとなった。日本で初めてモリスのデザインが販売されたのは1965年のことだが、あくまでサンダーソン社のコレクションとして、1〜2点が紹介されただけだった。そうした状況を1980年代に転換し、「MORRIS&Co」のブランディングに取り組んだのが、現サンダーソン社相談役のマイケル・パリー氏であった。パリー氏はサンダーソン社のデザインディレクター、社長といった要職を歴任、30年以上の長きにわたって世界へデザインを発信し続け、現在はアーカイブの監修役も務める、“ミスター・サンダーソン”とも呼ぶべき人物。そのパリー氏がウィリアム・モリスのデザインに改めて着目し、ハンドメイドからマシーンプリントへ転換することで価格的に手頃なものとした壁紙とファブリックのコーディネートブックを発表、「MORRIS&Co」をブランドとして再構築し世に送り出した。それがウィリアム・モリスのデザインが見直されるきっかけとなり、現在の人気につながったというわけだ。
もしパリー氏がいなければ、「MORRIS&Co」も存在しなかっただろう。

モリスがいま生きていたら、どんな人物だったと思うかとパリー氏に聞いたところ、「伝統的な家族の有り様からはみ出し、芸術家のコミューンを夢見たところはヒッピーのようであり、いままで誰もやっていなかったことに、決然と取り組み、時代を挑発したところは、ポップアートの創始者アンディ・ウォーホルのようですね。いずれにしても、150年前のデザインが、いまなお世界でこんなに愛されていることは、マーケティング的にはあり得ないことで、まさにデザイナーの夢でしょう。モリス本人が見たら、きっとビックリしたでしょうね」とのことだ。