指名手配の娘を父が追跡

写真拡大

 娯楽の読書の本選びは難しい。
 その時の気分にあったものを選びたいし、読んでつまらなかったら“時間とお金を返せ!”となる。それに、自分がどんなものを面白いと思うかを把握している人は少ない。
 新刊『愛ある追跡』(文藝春秋/刊)をはじめ、藤田宜永氏の作品は、そうした“娯楽の読書”としてハズレが少ないように思う。

 『愛ある追跡』は、主人公の岩佐一郎があるホテルの近くに停めた車の中で仕事を終えたデリヘル嬢を待つシーンから始まる。殺人容疑で指名手配された一郎の娘・瑤子は、彼に「私、殺ってないよ」と言い残して姿を消した。その娘の行方を追って調査を重ねた一郎は、何らかの手がかりとなる情報を知っていると思われるデリヘル嬢の彩名から話を聞き出すため、それまで生業としていた獣医から、彼女らを送迎する仕事に就いたのだ。
 しかし、一郎は結局、瑤子と会うことができず、追跡の旅は三重県伊勢市、石川県白山市、群馬県安中市と続くことになる。

 「ハズレが少ない」と、いささか消極的な書き方をしたが、それこそが藤田宜永氏の持ち味である。
 ここ数作の藤田氏の作品は、大きな山場を作って読者の気持ちを盛り上げるのではなく、読者を白けさせる場面や描写を作らない、という点が意識として共通しているように思える。過度にこちらの情動を煽るような描写を避け、かといって退屈もさせない。きっちりと読者を最後まで引っ張りつづける力があるからこそできることだろう。

 物語の幕切れはアンチ・クライマックス的で静かなものだが、物足りなさは感じさせず、むしろ好感が持てる。
 味わい深い、という言葉がぴったりくるような一冊だといえる。
(新刊JP編集部/山田洋介)


【関連記事】 元記事はこちら
「原発はエコ」は大ウソ
原発作業員たちの内部告発を公開
東日本大震災は予見されていた
“ゆとり世代”の正しい叱り方とは?