夏に読みたい宮部みゆきの“江戸物の金字塔”

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 宮部みゆきさんの時代物の小説は、味わい深く、あたたかい。
 2月に刊行された本作『ばんば憑き』(角川書店/刊)でも、宮部みゆきさんの文章の旨さ、物語の深みは健在だ。

 『ばんば憑き』には江戸時代を舞台にした6編の作品が収録されており、表題作の「ばんば憑き」のほか、「坊主の壺」「お文の影」「博打眼」「討債鬼」「野槌の墓」が並ぶ。

 どす黒くて、人の血が濁ったような色合いで、50個の目玉が生えている大きな蒲団のような物の怪(もののけ)。「博打眼」で登場するこの物の怪は、人の心の隙につけ入る妖怪を描いているが、その妖怪を生み出したのが人の心の醜い部分だった。
 欲や貧しさや妬み……人の心にある闇から生み出される物の怪。本当に恐ろしいのは、物の怪ではなく、人の心なのかも知れないと思わされる。

 『日暮らし』にも登場する政五郎親分とおでこが謎を解き明かす「お文の影」。『あんじゅう』の手習所「深考塾」の若先生・青野利一郎と悪童三人組が奮闘する「討債鬼」など、宮部ファンにとってはおなじみの登場人物も活躍する。
 また、「お文の影」は昨年開催された自作朗読会「リーディングカンパニーVol.9」で、人気作家・大沢在昌さん、京極夏彦さん、宮部みゆきさんの3人で朗読された。

 怖い話というと、読後感がざらりとしたものになるが、宮部みゆきさんは一味違う。
 読んでいる間は怖いのだが、物語、文章に、ほっこりとあたたかみがあり、読後感がとても良いのだ。そして、どの作品にも子供が活躍する。子どもたちの元気で、愛らしい描写も、物語をあたたかくする。
 短編でありながら、一話ごとに読み応えがあり、味わいがある。人の心の隙をついた悲しくも、ぞくりと怖い物語。夏の夜に読みたい作品だ。
(新刊JP編集部/田中規裕)



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