■波はあるが昨期とは変わった神戸の戦い

J1リーグ第18節を終えた時点では勝ち点13の11位と中位に落ち着いているが、一時は4位まで順位を上げ、周囲から「今年はいいぞ」、「おもしろい」と注目を集めた神戸。順位が落ちてきているということは、まだまだチームには波があると言えるわけだが、シーズン途中まで散々な内容のサッカーを繰り返し、監督交代の決断が遅れたことで最後の最後まで残留と降格の間をさまようことになった昨シーズンとは違ったサッカーを見せられているという意味では、大きく変わっているのは間違いない。残留争いという特別な状況下での“ドーピング”があった昨季とは違う中、チームがわずかながらも前進できているのはどこに理由があるのか、これまでを振り返ってみたい。

今季再びJ1の舞台で戦う権利を得た神戸は、和田昌裕監督がシーズン当初から指揮を執ることになった。和田監督は09、10年に2年連続でシーズン途中からチームを率い、神戸の立て直しをしてきた監督だが、始動から監督を務めるのは今季が初めて。ある程度自分の思うように進められる中で、どのようなチームづくりをしていくのか、周囲だけでなく監督自身も楽しみにする中で動き出した。

■ポゼッションの向上を目指した強化

その中で指揮官が周囲に向けて強調したのは「ポゼッションの向上」。これまでは堅守速攻を得意としてきた神戸だったが、「アグレッシブな部分はもちろんいいけど、どうしても『せわしない』といった印象がある」と、カウンター一辺倒の攻撃から脱却しようとスタートした。ただ、ここで重要だったのは、チームコンセプトを大きく変えて、スタイルをごっそり入れ替えてしまうようなことをしなかった点。

「カウンターサッカーで結果を残せるようになってきたから、ポゼッションサッカーに変えたい」と話し、昨季までの積み上げを捨ててしまう監督、チームも見てきたが(例えば09年の神戸のように…)、その過ちをすることがなかったことは良かったように感じられる。自分たちの持っているストロングポイントは大事にしたまま、あくまでポゼッションは“プラスアルファ”として位置付けたこと。それが安定感のある戦いを可能にした。

■和田監督の持つ経験、そして自分たちが「戻る場所」

このことについて、和田監督に聞いてみると、次のような言葉が返ってきた。「僕が過去にシーズンを通して監督をした経験があれば、ゴロッと変えることもあったかもしれないけど、1年間やったことがない。自分で経験していないわけやから、それでゴロっと変えて結果が出ないかもしれない。継続しながら勝ち点を積み重ねるためには、今までの良いところを残しつつ、そこをさらにやれば失点は減ると思った。そしてより攻撃の部分の流動性を高めればいい。カウンターは武器であるわけやから、チャンスがあればいけばいい。それができない時にどうするか。それがポゼッションのところになる」。

和田監督は自身の経験不足を大幅な路線変更をしなかった理由に挙げたが、そこまでを含めた判断は正しかった。カイオ・ジュニオールがチームを率いて失敗した09年は、それまでの積み上げを全て崩すところからスタートしたことで絶望的な状況に陥り、昨季も守備的すぎる戦いで“らしさ”を失っていた神戸にとって、良いところを維持しながら上昇を目指す今季のやり方は望ましいものだった。

チームの強みとなるのは、やはりこれまで積み上げてきた組織的なディフェンス。「1試合1失点未満(13試合で12失点)にできていることがあると思う。全体で組織を構築するということについてはある程度できている。これがうまく攻撃までつながっていないこともあるけど、守備の意識は高くやれていると思う」という和田監督が話す通り、守備で大崩れするようなことはあまりない。そこを見失うことなく維持できていることは、今後も継続していくべきポイントになるだろう。「自分たちには“戻る場所”がある」(北本久仁衛)ことを大切にしていくことは忘れてはならない。