第145回(平成23年/2011年上半期)芥川龍之介賞の候補作が本日発表された。6作のラインナップは以下のとおり。(◎は当欄の受賞作予想の本命、○は対抗、△は大穴)

◎円城塔「これはペンです」新潮1月号
○石田千「あめりかむら」新潮2月号
△本谷有希子「ぬるい毒」新潮3月号
 戌井昭人「ぴんぞろ」群像6月号
 水原涼「甘露」文學界6月号
 山崎ナオコーラ「ニキの屈辱」文藝夏号

 選考委員は、池澤夏樹、石原慎太郎、小川洋子、川上弘美、黒井千次、島田雅彦、高樹のぶ子、宮本輝、村上龍、山田詠美の各氏。
 選考会は7月14日、築地・新喜楽で開かれ、午後7時〜9時ごろ受賞作が発表される。

 前回144回の芥川賞は、大本命の朝吹真理子「きことわ」が先行、最終コーナーをまわって西村賢太「苦役列車」が猛追し、《新潮》掲載の2作がそろって受賞することになったが、今回も候補6作中、半数の3作が《新潮》初出。
 過去4回の芥川賞受賞作4作(前回の2作と、磯崎憲一郎「終の住処」、赤染晶子「乙女の密告」)はすべて《新潮》初出と、このところ《新潮》勢の圧倒的優位が続いているが、候補作を読むかぎり、今回も《新潮》優勢は動かない。

 今回、《文學界》から唯一エントリーした水原涼「甘露」は、今季の文學界新人賞受賞作(の片方)。濃密な文体で近親相姦を描く力作だが、いきなり芥川賞を獲るレベルじゃないでしょう。水原涼は、1989年、兵庫県生まれ。北海道大学文学部在学中の21歳。もし受賞すれば、男性受賞者の最年少記録になるらしい。

 《群像》の戌井昭人「ぴんぞろ」はチンチロリンの話。戌井昭人は141回の「まずいスープ」に続き2度目の候補入りだが、博打小説としては、142回で落選した松尾スズキの「老人賭博」に及ばない気が。

 山崎ナオコーラ「ニキの屈辱」は、若い女性写真家とその同年配の助手とのツンデレ/格差恋愛小説。ニキのキャラの立ちっぷりはすばらしいが、芥川賞向きかというと疑問。著者は、132回、138回、140回に続き、これが4度目の芥川賞候補。

 《新潮》3本のうち、本谷有希子「ぬるい毒」は、たいへんめんどくさい性格の"私"こと熊田由理の19歳から24歳までを鬼気迫るリアリティで描く200枚の中編(単行本発売中)。人間心理のいちばんめんどくさいところまで平然と踏み込んでいく生々しさが素晴らしいが、5月の三島由紀夫賞では支持を得られず落選。これが3度目の芥川賞候補入りだが、本命には推しにくい。

 初候補の石田千「あめりかむら」は、30代後半の道子が主人公。5年前に手術した腫瘍が転移したかもしれない不安を抱えながら大阪へ旅しながら、大学で同期だった戸田君のことを回想する。"震災後の日常をどう生きるか"という視点で読むと、いま必要とされている小説じゃないかとも思ったり。

 文學界新人賞受賞のデビュー作「オブ・ザ・ベースボール」に続いて二度めの芥川賞候補入りを果たした円城塔の「これはペンです」は、所在不明のヘンテコな叔父さんと手紙をやりとする姪の物語。問題の叔父さんは、論文の自動生成プログラムを開発し、論文と大学の卒業証書をセットで売る商売で財をなした愉快な人物。文章を書くことをめぐるヘンテコな手紙ばかり送ってくるが、家族の中で、語り手の姪だけはきちんとその相手をしてやっている(ので、母親からは感謝されたりする)。
 帰ってこない叔父について研究する小説といえば、「オブ・ザ・ベースボール」が落選した回の芥川賞を受賞した諏訪哲史「アサッテの人」がまさにそれだが、本編は「アサッテの人」への返歌とと言えなくもない。
 大学生の姪が語り手ということもあり、従来の円城作品にくらべると非常にとっつきやすく、リーダビリティの高い仕上がり。今回は意外と受賞可能性が高いのではないか。
 というか、磯崎憲一郎「終の住処」、赤染晶子「乙女の密告」、朝吹真理子「きことわ」という最近の芥川賞の流れから予想すると、今回の6作の中では、これが大本命じゃないか----という気さえしてくるくらいだが、さてどうなるか。7月14日が待ち遠しい。

(大森望)







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