7月4日付の朝刊各紙で、第145回(平成23年/2011年上半期)直木三十五賞の候補作が発表された。5作の顔ぶれは以下のとおり。

 池井戸潤『下町ロケット』小学館
 島本理生『アンダスタンド・メイビー』(上下)中央公論新社
◎辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』集英社
◎高野和明『ジェノサイド』角川書店
 葉室麟『恋しぐれ』文藝春秋

 前回(144回)の直木賞予想では、木内昇『漂砂のうたう』と道尾秀介『月と蟹』の2作受賞をみごと的中させた当欄ですが(http://www.webdoku.jp/newshz/ohmori/2011/01/13/192500.html)、いやはや、今回はむずかしい。候補作5作の中に自信をもって◎を打てる作品が1本もなく、テッパン予想は不可能。

 ......ということで、今回の直木賞、大森予想の本命は「受賞作なし」(実際に受賞作が出なければ、第136回以来、9期ぶりとなる)。
 と言いたいところだが、それもさびしいので、候補作5作を読み比べた結果、個人的に受賞してほしいと思った2作に、ええいままよと◎を打った。

 選考会は7月14日、築地・新喜楽で開かれ、午後7時〜9時ごろ受賞作が発表される。
 選考委員は、浅田次郎・阿刀田高・伊集院静・北方謙三・桐野夏生・林真理子・宮城谷昌光・宮部みゆき・渡辺淳一の各氏。

 以下、候補作5作をざっと紹介する。

 今回の台風の目は、直木賞初候補の高野和明『ジェノサイド』。刊行当初からミステリ界隈ではたいへん評価が高く、今年の山田風太郎賞と「このミステリーがすごい!」ランキング1位と来年の日本推理作家協会賞は当確----と囁かれていたが、いきなり直木賞候補に躍り出た(公募新人賞以外の文学賞で高野作品が候補になるのは今回が初めて)。
 高野和明は、1964年生まれ。乱歩賞受賞のデビュー作『13階段』が50万部突破のベストセラーとなる。
 単独長編6作目の『ジェノサイド』は、波瀾万丈の超大型ジャンルミックス・エンターテインメント。創薬化学系の大学院生が国際的な事件に巻き込まれて追われる話と、特殊部隊出身のアメリカ人傭兵がコンゴ奥地のジャングルで奇怪な任務に従事する話とが並行して進み、やがて驚くべき真相が明らかになる。読み心地はスケールの大きなタイムリミット・サスペンス+国際軍事謀略小説だが、アイデアの骨格は本格SF。
 SFが直木賞を獲ったことは(景山民夫『遠い海から来たCoo』を別にすると)いまだかつて一度もないので、『ジェノサイド』が受賞を果たせば、狭義のSFとしては史上初の快挙になる。
 とはいえ、ここまで科学ネタを書き込んでしまうと直木賞受賞はむずかしいんじゃないかという気もするので、予想としては○止まり。逆に、『ジェノサイド』が受賞するようなら、直木賞の変身も本物ということか。

 従来の"直木賞の常識"にしたがって順当に予想した場合の本命は、文藝春秋から刊行されている葉室麟の『恋しぐれ』。
 1951年生まれの葉室麟は、文藝春秋が運営する公募新人賞、松本清張賞を受賞している時代小説作家。直木賞に関しては、第140回から142回まで、『いのちなりけり』『秋月記』『花や散るらん』と3期連続して候補入り。これが4度目の候補となる。
『恋しぐれ』は、画家・俳人の与謝蕪村と蕪村をめぐる人々(弟子の松村月渓や、円山応挙、上田秋成など)の人間模様を描く連作短編集。そろそろ獲っても不思議はないが、各話がいかにも短いのが難点。老いらくの恋の顛末を描く巻頭と巻末の挿話(合わせてひと続きになっている)は味わい深いが、さて、四度目の正直となるかどうか。

 島本理生は、1983年生まれ。群像新人文学賞出身。20歳のとき、『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞の史上最年少受賞を果たしたほか、過去3回の芥川賞候補歴(128回、130回、135回)があるが、今回初めて直木賞候補に。もっとも、2005年の『ナラタージュ』はエンタメ系の山本周五郎賞で候補になっているので、『アンダスタンド・メイビー』の直木賞候補入りは順当と言えば順当か。
 小説は、中学3年の春から語り起こし、幼なじみの男の子との関係を軸に、ヒロインの恋愛と成長を追ってゆく。上下巻の大作なのが最大のネックか。

 辻村深月は、1980年生まれ。142回の『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』に続いて、これが2度目の直木賞候補。今年はすでに、『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞を受賞、日本推理作家協会賞短編部門と山本周五郎賞でも別作品が(受賞は逃したものの)候補になっている。
『オーダーメイド殺人クラブ』は、世間の記憶に残る衝撃的な方法で殺されたいと願う中学二年生の少女をリアルに描く、思春期小説の名作。一種の中二病小説とも言える。
 アラサー既婚女性作家対決では、『オーダーメイド殺人クラブ』のほうがやや有利と見るが、内容的に直木賞ストライクゾーンをはずれるため、こちらも○どまりか。

 池井戸潤は、1963年生まれ。136回の『空飛ぶタイヤ』、142回の『鉄の骨』に続き、これが3度目の候補入り。
『下町ロケット』は、小さな町工場が大手重工業メーカーを向こうに回して一歩も引かず、自社開発の技術でロケットエンジン開発の巨大プロジェクトに参入しようとする熱いドラマ。『空飛ぶタイヤ』に続いてWOWOWで映像化されることも決まっている(8月から連続ドラマW枠で放送予定。全5回)。血湧き肉躍るエンターテインメント性は抜群だが、5月の山本周五郎賞で落選したばかり。山周賞落選作が直木賞を受賞した例は皆無なので、○は打ちにくい。

 というわけで、表の本命は高野和明『ジェノサイド』と『オーダーメイド殺人クラブ』の2作受賞。裏の本命は「受賞作なし」。でも、正直、今回は全然自信がありません。結果はいかに。

(大森望)







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