「図表に必要なのは“公正さ”」―村井瑞枝さんインタビュー(2)

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 かんき出版から出版されている『ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール』。本書はウォールストリート・ジャーナル紙のグラフィック・エディターのディレクターだったドナ・M・ウォン氏が執筆した“THE WALL STREET JOURNAL GUIDE TO INFORMATION GRAPHICS”を、コンサルタントの村井瑞枝さんが翻訳した一冊です。

 村井さんは、実は学生時代にアートを学び、その後、JPモルガンやボストン コンサルティング グループなどを渡り歩いたキャリアの持ち主なのだそう。
 そんな村井さんへのインタビューでは、日本とアメリカを比較し、日本のグラフや図解表現に不足している点や村井さんご自身のお話などをお聞きしました。今回はそのインタビューの中編となります。


―中編:より深く切り込む、“図解表現のルール”―

―村井さんとアートの出会いについてお聞きしたいのですが、最初にアートに興味をもたれたのはいつ頃だったのですか?

「幼い頃ですね。絵を描くことが好きで、よく紙に描いたり壁に落書きしたりしていました。図工の成績も良かったです。ただ、本格的に勉強するつもりは全くありませんでした」

―大学ではアートを専攻されていたそうですが、それはどうしてですか?

「アメリカの大学に入学したにも関わらず、最初は英語ができなかったのです。筆記は得意だったのですが、リスニングや話すのは苦手だったので、ネイティブでも難しい授業に当然ついていけるはずもなく。ただ、アメリカの大学はすごく成績を重要視するところですから、『これはまずい』ということで英語力がそれほど影響しない科目を探したところ…」

―アートがあったわけですね。

「そうです(笑)。もともと好きでしたし、得意なものでもあったのですが、授業を履修してみたところ、やっぱり面白かったんですよ。それからとんとん拍子に、そちらの方向に行ったという感じですね」

―アートにも空間デザインとか、油絵とかいろいろな分野があると思いますが、村井さんの得意なジャンルはなんですか?

「陶芸です。今、料理やレストランに関わる仕事をしているのですが、その延長線上に陶芸もあるような気がして。また、他にも絵画やコンピューターグラフィックスなども勉強しました。また、イタリアに留学したときには、美術史の勉強もしました。

―村井さんのブログを拝見させていただいたとき、さきほどおっしゃられた「日本のビジネスパーソンはとにかく情報を詰め込み過ぎている」ということを実体験できるクイズが掲載されていて、すごく参考になりました。もっと他にも私たちが勘違いしているところがあると思うのですが、村井さんはどうお考えですか?

「“情報は多い方が良い”という先入観があるのかなと感じることがあります。また、その結果、情報を集めるだけ集めて、その解釈は相手に委ねてしまう、ということが多いように思います。」

―なるほど!

「“私はこれだけ情報を出しました。この情報をもとに、判断をお願いします”ということですね。これは部下と上司の関係が強い日本の社会では成り立つのでしょうけど、それでも上司からすると、もう少し情報を解釈してから出して欲しいと思っているのではないでしょうか。
相手が考えないと分からない、理解できない図表は全く意味がありません。本当はぱっと見て分かるくらい整理してあって、なおかつメッセージがある。メッセージを伝えるための根拠として図表を使うという方が、本来の使い方だと思いますね」

―確かに相手に解釈を委ねる図表はメッセージを伝えるという意味をなしていませんね。

「はい。あともう2点、日本で良く見かける図表としては。数値をとりあえずグラフにしてしまっているケース、もう1つが、色を無造作に使っているケースがあります。見る人の立場からすると、色がごちゃごちゃしているとかえって見づらい。色を使う場合は、同系色で3色程度におさえられると良いですね」

―村井さんがこれまで見てきた図表・グラフの中で「すごい」と思ったものはどのような図表でしたか?

「これはあまり具体的には言えない部分も多いのですが(笑)、とある企業で問題が発生していたんですね。競合他社に顧客を取られてしまっている、と。
その原因をいろいろな軸で分析したとき、その原因が一瞬で理解できるような分析ができている図表が出てきたんです。すごく分かりやすかったですね。ただ、その図表そのものに価値があるのではなく、その問題の原因が何かという仮説やメッセージに価値があるのですが。実はこうだったという、事象やモノゴトの裏側が見えてくる図表は素晴らしいですね」

―言葉で説明されるよりも図表で説明されたほうが、インパクトはありますよね。

「そうですね。特に事実を表現する数字は、説得力があります。文章だと概念的になってしまいますが、図表と数字を使って表現すると、一瞬で『あ、なるほど!』と思えます」

―村井さんは、「分かりやすい図表」をどのように定義しますか?

「シンプルに、的確なフォーマットで、公正に表現している図表のことですね。シンプルさと的確なフォーマットというのはこれまでも話してきたことですが、それだけでは不足しています。伝えたいことを的確に表現している上に公正さが求められるのです。
そんなに売り上げが伸びていないのに、伸びているように見せかけた図表とかを見かけることがありますが、そういう図表は、逆に見た人を不安にさせてしまいますよね」

―でも、シンプルさや的確なフォーマットもこういった本で勉強しない限りは身につけられないですよね。

「経験知で伝えるのは時間がかかりますし、本書などを通して一通り基礎を覚えれば、時間短縮になると思います」

―後編:「翻訳者・村井さんのリフレッシュ方法を聞く」に続く―



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