出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第31回は、最新刊『ジェノサイド』(角川書店/刊)が注目を集めている高野和明さんです。
 今回は最終回。
 幼少時から映画監督志望で、今でも映画を「一番やりたいこと」と語る高野さんに、映画との出会いや、小説家転身の理由などを伺いました。

■「スピルバーグ『未知との遭遇』を70ミリで観て、ショックのあまり発熱した」
―高野さんといえば、小説家としてデビューする前は脚本家として活動されていたそうですが、小説を書き始めたきっかけはどんなものだったのでしょうか。

高野「プロの脚本家の世界って、プロデューサーやディレクター、俳優のマネジメント会社などの意見の調整係になってしまうことが多いんですよ。よほどの大物にならない限り、脚本家が自分でオリジナルの話を作って、それがそのまま映像化されるということはないんです。で、そんなこんなで100パーセント自分の作品で勝負したいという創作的な欲求不満が溜まっていった、というのが一つあります。そもそも脚本家をやっていた最大の理由は、映画監督になりたかったからなんです。1980年代までは、「監督は脚本を書けなければならない」という日本映画界の良い伝統がまだ生き残っていました。しかし90年代に入り、脚本家をステップに映画監督への道を模索しても、一向にその道は開けてこない。オリジナル企画を出しても、「原作ものではない」という理由で却下される。それなら原作を書いてしまった方が早いと思ったんです。あとは脚本家では食べていけないというのもありましたね」

―映画監督志望だったということですが、本作『ジェノサイド』を映画化してみたいと思ったりしますか?

高野「小説家になってからすぐに考えを変えたんですけど、やはり小説は小説ですので、映像では表現できないようなものを、と思って書いていますね。『ジェノサイド』を映画化したらどうか、とよく言われるのですが、これをこのまま映画化したら、本当にしょぼいアクション映画にしかならないと思います。全編を映像にして思い浮かべていただけるとすぐに分かると思いますが、現象面として描かれていることは、実は大変に地味なんです。戦闘場面も、小規模なものが二カ所しかありませんし。それを言葉の力を借りて緊迫感を盛り上げたり、キャラクターの感情面を大きく動かしたり、あるいは映像では表現できない人類史のようなファクターを盛り込んで壮大さの方向に持って行っている。重要なことはすべて活字で表現されているんです。道義上、映像にできない場面もたくさんありますが、それは小説という形式を意識して敢えてやったことです。人間が現在も行なっている残虐な行為は、あまりにも残虐すぎて映像では映し出せない。活字でやるしかないんです」

―高野さんと映画の出会いについて教えていただけますか。

高野「小学2年生の時にスピルバーグの『激突!』を観て、映画に取りつかれたんです。その後、3年生の時にブルース・リーのブームが来たんですけど、自分の家に8ミリカメラがあることに気づいて、これを使えばカラテ映画を撮れる!と思ったのが映画監督への第一歩でした」

―今も映画を撮りたいという気持ちはあるんですか?

高野「今もありますね。一番やりたいことです」

―高野さんにとって、面白い小説とはどのような小説ですか?

高野「まずは一気読みできること。そのためには面白いストーリーと、生きているキャラクターが必要です。この二つは、最低限の品質管理基準として自分の中に持っています。ただ、こればかりは著者が面白いつもりでも、読者につまらないと言われたらおしまいですけれど。なるべく楽しんでいただけるように努力はしています」

―では、面白い映画とはどんなものだとお考えですか?

高野「それはたくさんありすぎて一つの類型には括れないです。スピルバーグも好きだし、ブルース・リーも好きだし、黒澤明も好きだし、師匠の岡本喜八監督の作品も大好きですし…。ただ、映画も小説も本物と偽物があって、本物のふりをしている偽物があるんですよ。それは受け手が個々に判断するしかないんですけど。よくあるのは、人間の愚かさを描こうとして愚かな人間しか描けていないというものですね。作り手の側は、普段受け手として何を本物と判断するかによって、作り手としての格が決まってくると思います」

―高野さんは映画だけでなく、本もかなり読まれていたとのことですが、好きな作家の方はいらっしゃいますか?

高野「小学校のころは中岡俊哉さんと南山宏さんの本が好きでした。怪談や超常現象ものを子供向けに書いてくれていました。中学に入ってからは、コナン・ドイルや筒井康隆さん、高校生になってからは大佛次郎さんが好きでしたね。その他には、順不同で横溝正史さんに佐々木丸美さん、エーリッヒ・ケストナー、ジェフリー・アーチャー。小説家ではないですが、立花隆さん。あと、脚本家時代に宮部みゆきさんの作品に触れて、自分も小説を書いてみたいと思うようになりました。最近では、桜庭一樹さんの本をずいぶんと読んでいます」

―こちらも、好きな映画の方も教えていただければと思います。

高野「師匠の岡本喜八監督を除けば、やはり筆頭はスピルバーグですね。自分の人生はスピルバーグ映画とともにあるといってもいいくらい。『激突!』で映画にのめり込み、『ジョーズ』を観て映画監督になろうと決意し、中学1年生の終わりに『未知との遭遇』を70ミリ上映で観て、ショックで発熱しましたから(笑)。 クライマックスの場面で全身に寒気が走って、家に帰ったら熱が出ていて、一週間学校を休みました。すごい衝撃でした。あれは知恵熱だったかも(笑)」

―作家として目指す場所はありますか?

高野「やっぱりエンターテインメントを書いていきたいと思っています。本の中にのめり込んでしまうほど夢中になれる小説というのは確かにあるんです。目指しているのは、そういう作品です」

―今後の執筆活動について教えてください。

高野「『別冊文藝春秋』で連載をする予定ですが、まだ中身を詰め切れていないので、しばらく考えます」

―高野さんの、執筆のモチベーションはどんなことですか?

高野「アイデアを思いついた瞬間の興奮です。その興奮は、原稿を書いていて大変な時はどこかに行ってしまったりもしますが、呼び起こそうとすればすぐに呼び起こすことができます。今回の作品で、科学者の味わう興奮とか陶酔感を描いた場面がありますが、アイデアを思いついた瞬間もあんな感じで、ふわふわした快感があります。面白いのは、アイデアが意識に上るよりも先に、その快感が広がることです。そのまま快感に浸っていると、ひらめいた内容が意識に浮かんでくる」

―高野さんの人生に影響を与えた三冊を教えてください。

高野「ウィリアム・ピーター・ブラッティの『エクソシスト』と、宮部みゆきさんの『魔術はささやく』『火車』ですね。この三冊が、自分を小説の世界に導いてくれました」

―最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。

高野「『ジェノサイド』を読んで、楽しんでいただければ本当に嬉しいです」

■取材後記
 これだけの傑作を書いた作家ということで、緊張して取材に臨んだが、実際にお会いした高野さんはとても気さくな方だった。映画だけでなく本に関しても造詣が深く、作り手としてのエンジンの大きさを感じずにはいられない。
 ちなみに、インタビューの中で高野さんが語っていた「新種の生物」こそが、本作の最大のキーワードとなっている。それが何を指すのか、是非とも読んで確かめてみてほしい。
(取材・記事/山田洋介)


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