書店員が選ぶ「2011年上半期 よかった本ベスト3」(1)
 世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。「感動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは?
 そんなときにあなたの味方になるのが書店員さんたちだ。本のソムリエ、コンシェルジュとしてあなたを本の世界に誘ってくれる書店員さんたち。
 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい本を3冊答えてもらうのが、「わたしの3冊」だ。【「わたしの3冊」バックナンバーはこちらから】

 今回のテーマは『2011年上半期ベスト3』!今回登場してくれたのは、紀伊國屋書店新宿本店ピクウィック・クラブさん。彼らは今年の上半期、どんな本を読んだのか。

◆『不思議の国のアリス』

著者:ルイス・キャロル/著、ヤン・シュヴァンクマイエル/画、久美里美/訳
出版社:国書刊行会
定価(税込み):2625円

 子供のころきっと一度は手にとった事のある『不思議の国のアリス』。1865年に原作がイギリスで出版され、その後日本に紹介されて以来すでに数多くの出版社から多種多様なかたちで出版されてきた。翻訳も矢川澄子、吉田健一、柳瀬尚紀、高橋康也など錚々たる面々が携わり、金子國義が翻訳・挿絵を施したものもある。(メディアファクトリーより出版されていたものの、現在は絶版…)そしてそんなアリスが今年国書刊行会より復刊された。「今さら国書が?」と思うなかれ。そこはさすがの国書刊行会。挿画がヤン・シュヴァンクマイエルなのだ。「その覚えにくい名前の人は誰?」と思われた方はぜひお手元のパソコンで検索して欲しい。初めてこの名前を耳にする人はGoogleの画像検索をして出てくる画像にきっと眼が釘付けとなるだろう。こんな感じの画があのアリスと一緒になるのだから興味が湧かないわけがない。本を開くと幼い頃の記憶の中のアリスが瞬く間に書き換えられ、目に飛び込んでくるのは新しい世界。“読む”というよりは“見る”アリス。7月にはこれまた日本人には馴染み深いラフカディオ・ハーンの『怪談』が、同じシュヴァンクマイエル挿画で発売されるらしいので、こちらも要注目です。


◆『苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集3-4)』

著者:石牟礼道子
出版社:河出書房新社
定価(税込み):4305円

 「魂」ということばのなかに、はたして魂はあるのか。日々の生活のなかでずっと、すこし疑うような気持ちで「サムライ魂」、「ヤマト魂」というようなキャッチコピーを目にし、耳にしてきた。
石牟礼道子『苦海浄土』という小説は、表題の作品が三部作の第一部にあたり、続いて収録されている第二部「神々の村」、第三部「天の魚」とあわせて読むと、二段組にして七百頁を超える大長編である。昭和二十年代ごろから問題とされるようになった「水俣病」と、それをとりまく人々や社会について書かれた、読み応えのある小説だ。
 この物語は全編通して「語り」、生きている人間と、かつて生きていた人間との「声」によって満たされている。それはわたし自身がふだんつかう語り口とはちがうが、読めば読むほど違和感なく語りのリズムの流れにのみ込まれ、自分がそのリズムにのって全身で呼吸をしていることに気がつく。作中で頻繁につかわれる「魂」ということばには、読んでいるわたしの吐く息が吹きかかり、語り手の呼吸と合わさってなにか地上のものとして目前に現われてきそうな気持ちになる。「水俣病」という大きく重たいテーマを扱いながらもルポルタージュにはならず文学世界にとどまるのは、このリズムが文字という平面の世界を飛び出して、読む者の肉体の端から端まで響きわたるからだろう。
 おそらく「魂」ということばの魂は、公の言葉にではなく、極私的な小さな声のリズムのなかにあって、静かに息を潜めながら、常にこちらを窺っているのだと思う。この作品を読んでわたしは初めて、「魂」ということばが意味や観念などではなく、体験であるということを知った。


◆『メトロポリス』

著者:テア・フォン ハルボウ/著、酒寄 進一/訳
出版社:中央公論新社
定価(税込み):800円

 今年新訳で出たこの本を紹介しようと思う。この小説は1926に出版されたとあって、ラジオや地下鉄、エレベーターなど当時の最新技術が次々と登場する。今ではどれも当たり前のものばかりだけど、時代遅れだとは決して感じず、むしろ生き生きと描かれている。この不思議な感覚はどこから来るのかと考えたとき、これらの技術は今もなお僕らの生活にありふれているということに帰結するのかもしれない。
 一方で不変では困ることもある。メトロポリスにそびえたつバビロンタワーは機械によって支えられている。そこに人間の出る幕などあるはずがなく、多くの人々が街のきらびやかさとは反対の生活を細々と送っている。そして、それが引き金となってバビロンタワーは名前の通り崩壊の道を進むことになる。機械あふれる現代において僕らは機械なしには生活することが難しい。今の僕はバビロンタワーの下で生きるあの男ではないか?今日は違っても明日はどうだ?そう考えると怖くなる。この小説はいつの時代にあっても未来小説として僕らの前に立ちはだかる。


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【今回の書店】
■紀伊國屋書店新宿本店


住所:東京都新宿区新宿3-17-7
TEL:03-3354-0131
FAX:03-3354-0275

■アクセス
JR新宿駅東口より徒歩3分、 地下鉄丸の内線・副都心線・都営新宿線「新宿三丁目」B7、B8出口より徒歩1分(地下道より直結)

■営業時間
10:00AM〜9:00PM

■ウェブサイト
http://www.kinokuniya.co.jp/

■フェア情報
6/1より人文書宣言×ピクウィック・クラブの合同フェア『小説と思考の繋留――“気づき”の先を想像する』が紀伊國屋書店新宿本店5Fにて絶賛開催中!


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