チェルノブイリ原発の事故から25年という節目を迎えた今年の1月、原発跡地を管轄するウクライナ政府が原子炉2基を国内に新設するという数十億ドル規模の計画を承認しました。さらに、事故以来立ち入りが制限されてきた地域の一部も、観光客向けに今年中には開放すると発表しています。

 こうした判断の背景には、事故から時間が経過したにも関わらず、科学者たちの間でも放射能汚染の影響についていまだに意見がほとんどまとまっていないという現実があるようです。6月10日に再創刊した雑誌『WIRED』(コンデナスト・ジャパン)が伝えています。

 例えば、デンマーク人の生物科学者アンデルス・モレールは、制限区域内に生息する野生動物たちの研究を通じて、「個体数と生物の多様性に、汚染による強い影響が見られた」と主張。放射能汚染が及ぼす生態系への悪影響に警鐘を鳴らしています。

 対して、ウクライナの生物学者セルゲイ・ガシュチャクは「こうしたデータは意図的に歪められており、悪影響は見られない」と反論。チェルノブイリ原発事故の発生以来、制限区域内の野生動物たちを観察してきた経験からモレールの主張を否定しています。

 こうした論争に決着はついていません。これまで動物などを使って行われた放射能汚染に関する研究でも、はっきりとした結果が出るまでには何世代もかかっています。事故発生当時、放射性廃棄物の除去作業に従事した作業員たちの子どもの世代が子育てを行っていると考えても、まだ3世代目でしかありません。人間に起こりうる遺伝子への悪影響が十分に解明されるには何十年、何百年とかかる可能性だってあるのです。

 しかし、それは悪影響が断定されないから「安全だ」ということではありません。ウクライナ政府は制限区域の開放計画を進めていますが、放射能汚染の悪影響を否定するガシュチャクでさえ、政府の方針には懐疑的です。

 ヨウ素131が崩壊し、より危険性の高い放射性物質であるストロンチウムとセシウムも徐々に消えて行くなか、制限区域内一面に撒き散らされたプルトニウム241の粒子は崩壊して、さらに有害なアメリシウム241に姿を変えつつあります。プルトニウムよりも強力なアメリシウムは、より水に溶けやすく、食物連鎖のなかにも入り込みやすいそうです。

 さらにアメリシウムも崩壊すると、これもまた有害なネプツニウム237に変わります。そして、その半減期(=消滅するまでの時間)は200万年以上。いまのところこうした放射性物質が与える長期的な影響については、ほとんど何もわかっていないといいます。

 詳細がわかっていないが故に、安全性を認めようとする政府。そして、反対に何もわかっていないのだからと慎重に議論を戦わせる科学者たち。どちらの判断もコインの裏表に過ぎないのでしょうが、それがもたらす結果は後の世代にまったく異なる影響を与えてしまうのかもしれません。



『観光地化が進むチェルノブイリ 科学者たちの意見は?』
 著者:
 出版社:コンデナスト・ジャパン
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