「図表に余計な装飾は要らない」―村井瑞枝さんインタビュー(1)

写真拡大

 かんき出版から出版されている『ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール』。本書はウォールストリート・ジャーナル紙のグラフィック・エディターのディレクターだったドナ・M・ウォン氏が執筆した“THE WALL STREET JOURNAL GUIDE TO INFORMATION GRAPHICS”を、コンサルタントの村井瑞枝さんが翻訳した一冊です。

 村井さんは、実は学生時代にアートを学び、その後、JPモルガンやボストン コンサルティング グループなどを渡り歩いたキャリアの持ち主なのだそう。
 そんな村井さんへのインタビューでは、日本とアメリカを比較し、日本のグラフや図解表現に不足している点や村井さんご自身のお話などをお聞きしました。今回はその前編をお届けします。


―前編:日本人の作る資料は“シンプルさ”に欠けている―

―今回は本書を翻訳された経緯や、日本とアメリカのグラフに対する考え方についてお聞きしていきたいと思います。村井さんはアメリカのアイビー・リーグの1つであるブラウン大学に通い、その後も外資系の企業に勤務されていましたが、こうした英語の本を翻訳するという機会はあったのでしょうか?

「そのような機会はありませんでした。この本の前に『図で考えるとすべてまとまる』という自分で書いた本を出版しているのですが、翻訳は初めてです」

―もともと村井さんが原著を知っていて、翻訳をしたいと思っていたのですか?

「いえ、そうではありません。もともとはこの本の担当編集者の方が私の(図解についての)セミナーに参加されていまして、セミナーの内容とこの本の内容が似ていたこともあって、『この本を翻訳しませんか?』と声をかけていただいたのがきっかけです。自分が翻訳の仕事を頂くとは思っていませんでしたので、驚きました(笑)」

―原著の印象はどのようなものでしたか?

「まず、内容が面白いと思いました。日本にこういう本はこれまであまりありませんでしたから、紹介したい、と。」

―原著者となるドナ・ウォンさんとお会いしたことはあるのですか?

「残念ながらありません。ドナ・ウォンさんとお会いしたことがあるという方には会ったことがあるのですが(笑)。だから、アメリカに行ったときは是非お会いしたいと思っています」

―今回がはじめての翻訳ということで、苦労した点も多かったのではないでしょうか。

「苦労した点は結構あります。まず、図解表現の本なので、翻訳する箇所も少ないだろうと思っていたのですが、意外と多かったですね(笑)。あと、フォントの種類や、英単語の省略方法など、英語圏ならではの内容をいかに日本の読者の方に分かりやすいように翻訳するか、という点に気を使いました。」

―本書の中にはたくさんのグラフ、図表が出てきて、その使い方が丁寧に解説されています。村井さんが原著を読まれた際に、この本の図表の使い方についてどのような特徴があると思われましたか?

「この本の特徴の1つは、グラフの基本的な使い方やルールがしっかりと説明されていることです。例えば、線グラフや棒グラフなどはあまり使い分けを意識せず、なんとなく使ってしまいがちですが、それぞれのグラフの特徴と、どういう場面で使うべきなのかということをきちんと理解している人は意外に少ないですよね。この本は、そうした基礎を丁寧に説明した上に、さらに応用編まで展開しているので、教科書みたいに使える本だと思います」

―確かにグラフでの表現技術の方法はなかなか教えてもらう機会がありませんよね。

「そうですね。残念ながら、学校でも職場でも体系立てて習う機会はほとんどないと思います。この本のもう1つの特徴ですが、非常に見やすく構成されているということがあります。具体的な例題を使った良い例と悪い例が、見開きで紹介されているので、ぱっと見てすぐ分かるというという点も本書の良いところだと思います」

―私自身、DTPをやっていたことがあって、図表を作る機会もたくさんあったのですが、適当に作っていた印象があります。ここは円グラフ、ここは棒グラフといった具合に、ちゃんとした根拠でもってグラフの種類を決めていたかと言われると、そこまで考えてはいなかったな、と思います。

「そうなんですよね。そういう方は意外に多いと思います」

―アメリカと日本のグラフ表現を比べたとき、日本人の作るグラフの特徴や不足している部分はどういうところがあると思いますか?

「まず不足していると思うものは、シンプルさですね。棒グラフが3Dになっていたり、グラフに沢山の色を使いすぎていたり、余計な装飾を付けすぎているというか。そういった装飾がかえって図表を見にくくさせていると思います。
もう1つ、これはとても大切なことですが、メッセージを伝えるという意識が不足しているように感じます。日本でよく見かけるのは、『とりあえずグラフにしました』『数字があるので、なんとなくグラフにしてまとめてみました』というような意識で書かれた図表です。ところがアメリカでは、相手に何を伝えるのか、というメッセージがあった上で、最適なグラフを選ぶのが主流です。日本とアメリカではアプローチの仕方が反対になっていますね」

―確かにそうですね。いらないグラフも多かったりします。

「アメリカでは、論文でも資料でも、まず何を言いたいのかを考えた上で、それを展開して説明していくよう教育されます。そのためにグラフが必要であれば、グラフを使う、というアプローチですね。日本は逆で、データや情報をまずあるだけ出してから、これにはどういう意味があるんだろうと考える傾向があると思います」

―もともと村井さんは学生時代、ブラウン大学やイタリアの大学などでアートを学んでいたそうですが、アートと図解表現に共通する部分はどのようなところだと思いますか?

「2つほどありまして、1つは視覚効果を使って情報や感情を表現する、という点です。デザインやアートを勉強していた方は、2次元や3次元の視覚効果を使って表現することに慣れているので、図表作成にもすんなり入れると思います。もう1つアートやデザインと図表が共通して持っている要素として、自分が伝えたい内容を確実に伝えるために、“削る”という作業が必要になることです」

―なるほど。

「手持ちの情報を全部盛り込むと、重要なメッセージが他の不要な情報に隠れてしまって、伝わらなくなってしまうことが多々起きます。本当に伝えたいメッセージを強調するために、不要な要素を削っていくという姿勢から、シンプルさが生まれると思います。」

―出来る限りシンプルにしていくということですね。

「突き詰めて言うと、相手に何を伝えたいのか、ということをきちんと考えるということだと思います。自分が分かっていないものを相手に見せても伝わるはずもないですよね。」

―中編:より深く切り込む、“図解表現のルール”に続く―



【関連記事】 元記事はこちら
「生産性」が高い人の共通点
失敗を活かす為の考え方
血液型の性格診断、本当に正しい?
あるコミュニティで同じ誕生日の人と遭遇する確率