看板建築は個人商店がお好き?

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看板建築を見ていると、個人商店が多いことに気づく。それもそのはず、看板建築と個人商店には密接なつながりがある。

■看板建築は個人商店と仲がいい?

看板建築を見ていると、お店を営業していたり、元々はお店で今は廃業している風情の建物を多くみかけます。むしろ「まったくお店と関係のない看板建築はない」といってもいいくらいです。

それもそのはず、看板建築は商業建築(要するに、商売をする人が建てた建物)として普及したものだからです。また、銀座の表通りに陣取る大規模店舗や全国に展開する有名なお店ではなく、個人商店が看板建築の中心となっています。

かつての商店街には、スーパーマーケットはほとんどありませんでした(だからこそ「スーパー」と名乗ったのです!)。商店街には米、野菜、靴などの、特定の商品のみを売る小売店が何軒も並んでいました。そしてその多くが、看板建築の様式を採用して店構えを作り、商品を陳列するスペースを確保し、対面販売を行っていたのです。

今も商店街が残る街を歩くと、昔ながらにがんばっている個人商店が並んでいるはずです。建物を建て替えている例は増えていますが、個人商店はあまり立て替えをしないため、看板建築もたくさん残っていることが多いのです。

そう。金物屋さんとか魚屋さん、八百屋さんのような個人商店こそが看板建築の神髄なのです。


年季の入った個人商店の多くは看板建築である。夫婦だけで営業している雰囲気が漂っている。


■でも、時折見かけるチェーン店の看板建築もいい

逆にいえば、チェーン展開をしている大きなお店が看板建築を利用する例はあまりありません。居酒屋でも和民や養老の滝のようなメジャー店が看板建築に入っている例はほとんどなく、1店舗しかない独立系の居酒屋が入っていることがほとんどです。喫茶店でも、スタバとかタリーズはほとんどなく、マスターがこだわりのコーヒーを入れている一軒営業のお店がほとんどです。

おそらく、チェーン店は什器や店内のロジスティックを効率化する観点から、看板建築のような古い建物は使いにくいのでしょう。また、看板建築の建物だと2階を活用しても、数十人しか入れません。それに、看板建築のような古い建物はなかなかオシャレに使いにくそうです。

となると、「チェーン店の看板建築」はレアモノとして鑑賞の価値がある、といえます。
写真をみてもらうと、いくつかのチェーン店が看板建築を再利用している例が分かります。テイクアウトのお寿司は月島、立ち食いそばは神保町の例ですが、上手に看板建築の風情を活かしつつ、お店を展開していることが分かります。
フランチャイズなのか、直営店だが建物は借りているのか、興味深いところではあります。

私もあまりみかけない物件なので、もしチェーン店が入っている看板建築をみかけたら、twitterで写真つきで教えてくださいませ。(@yam_syun


看板建築は個人商店がメインだが、時々チェーン店の看板建築利用の例がある。これはこれで貴重品といえる。また、新聞配達店と看板建築はよく似合う、と思う。


■看板建築と新聞配達屋さんも仲がいい?

さて、自営業とチェーンの間にあるのが「新聞配達屋」です。朝日新聞とか日経新聞という名前は超メジャーですが、実際に配達しているのは全国にある配達店網です。実は、新聞配達店の多くは看板建築だったりします。

新聞配達店は、個人商店に近いところがありそうですし、古くから商売をやっている店で、看板建築との関係が深いのかもしれません。また、看板建築は構造上、一階の中央に柱がないことが多いため、新聞にチラシを折り込んで配達準備をするような作業に向いているというのも理由としてありそうです。

看板建築と新聞配達店は、なんとも似合う感じがします。街歩きで見つけたら、鑑賞してみてください。


■個人商店の多様性を楽しみたい

看板建築を楽しむときは、個人商店のたくさんいる店主の「こだわり」を感じてみてください。少しでも違う形の店構えにしよう、とか、限られた予算の中で格好いい店にしたい、といった「ワン・アンド・オンリー」なところが看板建築の醍醐味だからです。

大資本のもとで、何年かに一度、ブランドロゴを変更して、すべての店舗の看板を掛け替えるような力は個人商店にはありません。そのおかげで、私たちは40年前や60年前のお店の外観が楽しめるのです。

看板建築の何割かは、もうお店を閉め、「○×商店」というファサードだけが当時の雰囲気を残しているかもしれません。しかし、すぐにマンションに建て替えるような大資本ではないからこそ、当時の屋号が今もそのままに残され、みちくさ散歩をする人を楽しませてくれます。

自由で豊かな時代になりましたが、多様性だけは減っているような気がします。看板建築を見ていると、「豊かではないけど、『個』に誇りをもっている」感じがしてくるのです。


お店を閉めても看板建築の美しさは残されている。一つ一つの表情の違いが見る者の目を楽しませてくれる。

(撮影場所:中央区築地・月島、品川区小山・北品川、文京区大塚・白山、台東区入谷・上野、千代田区神田神保町・神田須田町、世田谷区代沢、あたり)






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