■J2のチームが3万人の観客を集めるという

6月1日、大分銀行ドームで大分FCによる記者会見が行われた。FC全社員、トリニータ全スタッフ及び選手、計73人の列席のもと発表されたのは「7.9大分総力戦」。J2第20節FC東京戦に観客3万人を集めるというプロジェクトだ。2010シーズン、J2の1試合平均入場者数は6,696人。それを3万人とは、いくらJ2では観客動員数上位の大分でも、ちょっと現実的とは思えない数字で、初めて聞いたときは軽く耳を疑った。

大分のホームゲーム入場者数が3万人を超えたことは過去に5回だけある。いずれもJ1時代で、まずは03年の磐田戦と鹿島戦、そして仙台戦。次に05年鹿島戦。直近は08年鹿島戦だ。03年は初のJ1昇格により黄金期のビッグクラブがやってくるという新鮮さがあったし、仙台とはともにJ1残留を賭けた崖っぷち決戦。05年は降格圏から見事な回復を見せた「シャムスカ・マジック」が強豪と対戦し、08年はナビスコ杯制覇後リーグ戦でも上位に食い込めるか否かの分水嶺と、いずれも試合そのものがそれぞれに魅力を持っていた。

8年ぶりのJ2となった昨季の1試合平均入場者数は10,463人。今季はホーム開幕戦こそ9千人台だったがその後はジリ貧で、第12節栃木戦では7,133人にまで落ち込んだ。しかも6月1日の時点でチームは13位。このままでは昇格前のJ2時代を下回る勢いだ。一度華やかなJ1を経験した観客には、J2での戦いは地味で魅力の乏しいものに思われるのだろう。

リーグ全体の観客動員が伸び悩むなか、さらに今季は東北大震災の影響で平日開催のゲームが増えている。ただでさえ経営難のクラブが、危機感を持たない方がおかしい。

■Jのステージに立ち続けるために

危機感を募らせる契機のひとつに、13年からJリーグに導入されるクラブライセンス制度がある。リーグ参戦にあたり毎年厳しい審査が行われるというものだ。ライセンスを取得できなかったクラブはJFLへ降格となる。

審査項目は大きく分けて5分野で計58個。特に施設基準と財務基準が重視され、収容人数や設備といった施設面での条件を満たすために、すでにスタジアム改修に着手しているクラブもある。02年日韓W杯誘致を目的に設立された大分FCの場合、施設面の問題はないが、課題は財務だ。債務超過あるいは3年連続赤字のクラブには原則としてライセンスが交付されない。09年の経営破綻以来細かい経費削減を重ねて11年1月にはどうにか1億1500万円の純利益を計上したものの、実質債務超過額は未だ10億円を超えている。

大分ほど極端ではないにせよ、09年度は38のうち8クラブが債務超過。震災の影響を考慮して3年連続赤字ルールの適用開始は1年遅らせるということだが、その他の審査基準を来年6月末の申請締切までに、満たせるかどうか。

■夢を売る企業としての矜持を

そんななかでの「7.9大分総力戦」発表。確かに、主力選手放出などが響いてシーズンチケット販売も目標に遠く及ばず、各節の入場料収入を少しでも確保したいところではある。しかし1試合の観客動員が約8千人という現状、3万人は目標設定として高すぎはしないか。

その数字の根拠を、取締役社長・青野浩志は熱く語った。「サッカー観戦の醍醐味は勝利の喜びとともに、スタジアム全体の迫力や一体感。観客のみなさんにあの非日常空間を経験していただきたい」。大銀ドームの収容人数は可動席含めて4万人。かつてここで3万人超の人々が、たったひとつのボールの行方にどよめき、歓声や悲鳴をあげた。地鳴りのようなその光景を思い出すと今でも胸が震える。もう一度このチームの試合であの昂奮を味わいたい。しかしあれは、背伸びした経営のもたらした砂上の楼閣、トリニータ・バブルではなかったのか−。