クライメイト・アラウンド・ザ・ボール―――。指揮官はかつて北欧で学んだその言葉を「ボール周辺の雲行き」と訳した。相手ボールホルダーのボールがどう動くか、そのとき守備者はどう判断するのか。後半のあのときの状況を宇佐美はこう説明する。

「相手がサイドチェンジしてくることは予測できていたので、ボールが入ってくる瞬間に守備ブロックから飛び出して、僕が走り勝って潰そうと思っていました。まず相手の石神選手にボールを渡さないこと。逆サイドからロングボールが来たときはヘディングで返す、という感じで。あのときは、うちのサイドMFの宏太(水沼)が中に絞らなければいけなかった。だから僕ひとりでも目の前の広いスペースをカバーできないと、宏太にも負担がかかってしまうから、絶対にやってやろうと」

宇佐美は試合終盤でも、相手が狙っていた広大なスペースを、前後左右に走り切ってカバーすることができた。「フィジカルモンスター」が愛称である。90分間走り切れるスタミナとスプリント力を兼ね備えている。今節は、不慣れなセンターバックで出場して黒星を喫した12節大分戦以来となる、本職のサイドバックでの起用。期するものはあっただろう。

ピッチ中央ではスピードのある相手エース高山薫を、この日本職のセンターバックに復帰した大久保裕樹がスピードとパワーで完璧に封じていた。チームも8節富山戦、9節京都戦、10節岡山戦と続いた3バック3連戦の経験を活かし、湘南の3バックにも冷静に対応。前半同様、時間の経過とともに相手の攻撃を停滞させた。

そして69分、監督同士のせめぎ合いを制した栃木は、渡部博文が挙げた追加点で勝負の雲行きを決めた。

■著者プロフィール
【鈴木康浩】
1978年生まれ、栃木県宇都宮市出身。作家事務所を経て独立。現在はJ2栃木SCを中心に様々なカテゴリーのサッカーを取材。「週刊サッカーマガジン」「ジュニアサッカーを応援しよう!」などに寄稿している。

携帯版閲覧方法


『サッカーを読む! Jマガ』公式携帯サイト



QRコードでのアクセス

docomo_qr


携帯各キャリア・メニューからのアクセス