智将・松田浩とともに成長する栃木SC第34回

■冷静なるアジエル封じ

湘南の最大のストロングポイントはアジエルだ。柏レアンドロ・ドミンゲスのようにほぼ守備に参加しない前残りのプレーヤーで、湘南の攻撃のほとんどはアジエルを経由する。右サイドから中央のスペースをふらふらと動いては、バイタルエリアで決定機を演出する厭らしい選手だ。

栃木は先週の練習で入念にアジエル対策を確認し、2位湘南との上位対決に挑んだ。
「アジエルとは半年間一緒にプレーしていたので特徴はわかっていたんです。左足が怖いので、できるだけ右サイドから中に入らせないように気をつけて対応しようと。試合中は僕が常にアジエルを見るように気をつけていました」(MF鈴木修人)

2009年の湘南で半年間プレーをともにしたボランチ鈴木修人が常にアジエルを監視下に置いて慎重にケアする。ふらふらとアジエルが中央に侵入してきても、中盤の門を閉じ、MFとDFの間でボールを受けさせなかった。もしアジエルが栃木の守備ブロックの外側でボールを持とうものなら、パワーとパワーの対決、おそらくJ2でアジエルにパワー負けしないのは唯一この男だけだろうパウリーニョが、猛然とプレスをかけて強引に奪い切り、ショートカウンターへつなげた。このふたりの1対1はヘビー級、見応え十分だった。

そして12分、水沼宏太のシュートのこぼれ球をロボが流し込んで栃木が先制。

序盤からボール保持は湘南だったが、堅守そのものが攻撃のリズムとなる栃木にとってこれは理想通りの展開。確かに湘南は、アジエルや永木亮太らが度々サイドチェンジから好機を作り出す場面もあったが、ときにはそのサイドチェンジを引っかけて栃木のショートカウンターの餌食になっていた。雨のピッチのせいか本来のパスワークもなりを潜め、攻撃のリズムをつかみ損ねていたようだ。

■クライメイト・アラウンド・ザ・ボール=ボール周辺の雲行き

前半は4−4−2同士。栃木にしてみれば、相手に精度の高いサイドチェンジを繰り返されない以上、守備ブロックのバランスは保ちやすかった。

「4バックでやっていると相手の思うツボ」
そう判断した湘南反町監督が後半、システムを3−4−3に変える。トップに田原豊、2シャドーに高山薫とアジエル。栃木はこの2シャドーをボランチ2人でケアするため、サイドMFの水沼宏太や高木和正もMF4人の距離間を維持するため中央に絞らざるを得なくなった。

このとき湘南には、両サイドに石神直哉、岩尾憲をタッチラインギリギリではらせ、栃木の守備ブロックに歪みをもたらそうとする算段があった。これに対し栃木は、湘南がいずれかのサイドでボールを保持すれば、完全に守備ブロックをボールサイドに寄せて守り、逆サイドのスペースを捨てていた。それが松田式ゾーンディフェンスの原則だからだ。

つまり後半の湘南は右サイドでボールを保持すれば、左ワイドのタッチライン上でポジションをとる石神直哉が完全にフリーになれた。

「相手は4と4のブロックで、石神が(左ワイドに)開くと、(栃木の選手たちは)そこに後ろ髪を引かれるようになった。これは思い通りだった」(湘南反町監督)

だが、この湘南の目論見は失敗に終わっている。湘南には精度の高いサイドチェンジのボールを一発で蹴れるキッカーがいなかったからだ。

そして栃木の対応もほぼ完璧だった。栃木の右サイドバック宇佐美宏和は自分がやるべきことを完全に理解していた。試合後に指揮官は言った。

「ボール周辺の雲行きを観察して判断に変えたという意味で、臨機応変なポジションを非常によく取ってくれたと思う。宇佐美の仕事ぶりはほぼパーフェクトだった」