前回、前々回と新刊『飲めば都』(新潮社/刊)について、著者の北村薫さんにお話を伺ってきました。
 最終回の今回は、北村さんの作家としてのルーツについて。
 北村さんといえばかつては覆面作家だったことが知られていますが、その時代のエピソードについてもお話を伺いました。 


■「この物語の中の人々に会っていただければ幸せ」

―北村さんがご自身についてお聞きしたいと思います。北村さんが物語を書き始めたのはいつ頃のことですか?

北村「小説は昔から好きだったから、子供の頃からちょっと書きかけては途中で面倒くさくなってやめる、ということはしていましたね。星新一先生がショートショートで話題になった頃に、ショートショートなら最後まで書けるんじゃないか、ということで書いて友達に見せたりもしました」

―文章を書くこと自体はかなり早くからされていたんですね。

北村「あれを書いたというのかはわからないですけどね。でも、高校生の頃はそういうことをやっている人は結構いましたよ。大学時代はワセダミステリクラブに入っていたこともあって、短いものを書いたりはしていました。その後はずっと読むのに徹していたんですけど、書いてみないかと言ってくれる人がいたので、『空飛ぶ馬』という作品を書いて、出してもらったというのが本格的なスタートです」

―書くことを職業として意識されたのはその頃ですか?

北村「『空飛ぶ馬』が東京創元社から出た頃は、一冊本が出ればいいよな、という感じだったんですけど、二冊目に出した本で日本推理作家協会賞を頂戴してから、このまま作家になるのかな、と考えるようになりました。熱烈な手紙をくれて、ウチで書いてくれないか、と言ってくれる人がいたりして結構評判が良かったんです。それが幸いでしたね」

―北村さんといえば、かつては覆面作家として活動をされていたので、その方は連絡先を調べてお手紙を送ってくれたんですね。

北村「当時は教師をしていたのですが、どうやって調べたのか職場に電話がかかってきたこともありましたね。○○書店というから教科書の勧誘だと思って出たんですけど、話が噛み合わないんですよ。それでよく聞いたら原稿の依頼だったという」

―覆面作家として活動されていたのは、やはり学校の先生だからという理由だったのでしょうか。

北村「そうですね。生徒に言われるのは嫌だしね。あんまり身近な人に読まれたくなかったんですよ」

―同時代の作家さんで好きな方はいらっしゃいますか?

北村「デビューした年が近いということでいうと宮部みゆきさんですとか有栖川有栖さんですね。『鮎川哲也と十三の謎』というシリーズでは宮部さんや有栖川さんとお名前を並べたので。宮部さんは本読み仲間でもあって、筑摩文庫から『とっておき名短篇』、『名短篇ほりだしもの』というアンソロジーをこの春に出しました」

―小説家としての目標がありましたら教えてください。

北村「作家というのは、その人にしか書けないものを書くというのが存在価値でしょうから、自分ならではのものを書いていきたいですね。
そういう意味で、文藝春秋から出ている『いとま申して』という本では、父親の日記を元にしてその時代や人を書いています。これは普通の小説ではないのですが、材料から何から、自分にしか書けないし書く務めがあると感じています。
売れる、売れないでいえば普通の小説の方が売れるんでしょうけど、それ以外の部分で自分の言いたいことがあるので、そういうものもやっていきたいと思います」

―北村さんの人生に影響を与えた本がありましたら3冊ほどご紹介いただけますか。

北村「3冊に絞るのは難しいですね。一番最初に出会ったということだと『トッパンの絵物語イソップ1〜3』、川端康成訳のものです。あとは、幼年期に読んだ、講談社から出ていた児童向けの『三国志』。これは非常に面白かったです。あとは『萩原朔太郎詩集』で、これは高校生の時に読んだのですが、言葉の持つ力を改めて思い知らされました」

―最後に、本作について読者の方々にメッセージをお願いします。

北村「印象に残る様々な人々がいますので、この物語の中の人々に会っていただければ幸せです」

■取材後記
 忙しい合間を縫って取材に応じてくれた北村さん。
 大の阪神ファンということで、インタビュー終了後は野球についても熱く語ってくださいました。
 本作『飲めば都』はもちろん、北村さんが自身の創作作法やアンソロジーの極意を明かしている『北村薫の創作表現講義―あなたを読む、わたしを書く』、『自分だけの一冊 ―北村薫のアンソロジー教室』(共に新潮社/刊)も、北村さんの作品世界を知るうえで欠かせない一冊です。本作と併せて読むと「作家・北村薫」をより深く理解できるはずです。
(取材・記事/山田洋介)


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