■遠藤が予言したアドリアーノのポテンシャル

6試合を終えたJリーグながら通算7得点で得点ランクの単独トップを走るアドリアーノ。「最低でも去年と同じゴールを奪うのは義務だと思っている」。Jリーグ移籍一年目にC大阪のエースとして奪った14点を「公約」として掲げたG大阪の背番号9は、着実にその数字を積み上げてきた。

6試合で7得点――。PK2点を含むものの、そのペースは過去にチームが輩出したブラジル人得点王2人と比較しても決して悪くない。05年のアラウージョは3得点、06年のマグノ・アウベスは7得点。いずれも開幕から6試合をこなしての数字である。

昨年は敵としてそのポテンシャルに接した遠藤保仁は開幕直後、こんな「予言」を残していた。「リーグ戦でもACLでも得点王になるポテンシャルはある」。

■母国・ブラジルでの足取り

世代別代表を含めて「セレソン」の肩書に縁はないアドリアーノだが、王国での足取りと実力は本物だ。母国でのブレークはインテルナシオナウがCWCで世界一に輝いた翌年の2007年のこと。アレシャンドレ・パトがACミランに移籍した後釜として定位置を獲得すると爆発的なスピードを持ち味にブラジル最高峰の舞台となる全国選手権の序盤11試合で6得点。ただ、その後はレンタル先のマラガやヴァスコ・ダ・ガマで負傷もあり、定位置を確保しきれず昨年、極東の小さな島国を新天地に選ぶことになる。

一見強面で、C大阪のエースとして挑んだ昨年の大阪ダービーでは中澤聡太の挑発に乗り、退場処分を受けたこともあるアドリアーノだが、その性格は素朴そのものだ。チームメイトに対してもシビアな評価を下す山口智は「今までに来たブラジル人とは日頃からの取り組み方が違う。守備もし過ぎるぐらいやってくれる」。
それもそのはずだ。王国に生きて来た男にとってダービーを争うライバル間での移籍が持つ意味の重みは熟知している。

「インテルナシオナウとC大阪の交渉がまとまらなかったのも理由だけど、それ以上にG大阪でのタイトル争いが魅力だったんだ」。

昨季は移籍初年度としては合格点が付く14得点を奪ったものの、その内訳は最終節での4得点を含むもので自身にとっては不完全燃焼の一年だった。「最低限の仕事はしただけだね。僕はブラジル時代から1トップの経験がないし、得意じゃない」。

インテルナシオナウ時代は元ブラジル代表のフェルナンドンら国内屈指のポスト系FWの周りを衛星的に動いたり、縦の関係でギャップを作り出したりしてフィニッシュに持ち込んできたアドリアーノ。ゴール前に固定されると最大の武器でもある速さが生きないだけに、昨季は終始ストレスを抱えながらのプレーだったのは言うまでもない。

■西野監督がポルトガル語で檄を飛ばす

未だその潜在能力を見せ切っていない背番号9に白羽の矢を立てたのが、ブラジル人FWの起用には定評がある西野朗監督だった。

新エース候補として獲得した背番号9について「昨年までのスタイルにはこだわらずにやらせる」(西野監督)。開幕直後は、最も好む2トップをイグノとともに形成させていた指揮官だったが「二人ともランプレーヤー。サイドに流れがちで中央でフィニッシュする力が欠けている」。

頭数では最低でも1+1=2となるはずの前線の構成に狂いが生じたことで、指揮官が方向転換を図ったのがキャンプ中に模索した[4-2-3-1]への回帰だった。

「グランジ・アーリア(PKボックス)」。わずか一言ながら、試合中に自らポルトガル語で檄を飛ばし、ボックス内での仕事を要求する西野監督にアドリアーノも応えた。

「ハッキリ言って、今でも僕は1トップが好きじゃない。でも求められる仕事はこなすよ」。半ば、義務感のプレーが続いていた1トップだったが、3節の山形戦では周囲のお膳立てを受けて今季初の2得点。同じ1トップでも2シャドーを生かすためのC大阪と異なり、今季の1トップはフィニッシャーに徹する役割だ。「嫌い」を公言していたブラジル人エースも徐々にそのニュアンスを変化させてきた。「1トップには慣れてなかっただけさ」。