北村薫・新刊インタビュー(1)

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 仕事で辛いことや、頭にくることがあった時、愚痴を言いたい時、または元気になりたい時に一役買ってくれるお酒。そんなお酒を中心に据えた物語が、直木賞作家・北村薫さんの最新作『飲めば都』(新潮社/刊)です。
 若手編集者の都が仕事に揉まれ、人に揉まれながら一人前になっていく姿を描いた本書ですが、物語の中で、お酒は人生や仕事に寄り添うものとして描かれています。
 著者の北村さんがこの物語のキーワードにお酒を選んだのはなぜだったのでしょうか。


■右も左もわからないところから育っていく人間の姿を書きたかった。

―本作『飲めば都』について、まずは最初の着想についてお聞きしたいのですが、舞台として出版社を選んだのにはどのような理由があったのでしょうか。

北村「最後のエピソードの元になった話を人から聞いたのが最初です。朝方帰ってきたら家の人がバットを持って階段のところに立っていた、というものなのですが、それを聞いて、これは面白いなと思ったんです。
もちろん、それだけだとただのエピソードで終わってしまうのですが、これに“酔っぱらい”をくっつけて、膨らませていくとこうなるな、とイメージできたので、じゃあ酔っぱらいの面白いエピソードを探そうということになりました。そこで、身近な編集者の方々にお話を聞いたら本当にいろいろなものが出てきたので、これで一冊書けちゃうなと、そういう流れですね」

―本作には酔っぱらいのエピソードとして「酔って帰ってきたら、転んで脚が血だらけなのにズボンは汚れていなかった」、「お酒を飲んだ翌朝、気がついたら下着がなくなっていた」など、ちょっと信じがたいものもありましたが、実話だったんですね。

北村「あれは不思議ですよね。結局何が起こっていたのか本人にもわからないみたいですけど。でも、この本に書いたものはまだ優しい方ですよ(笑)あまりにひどすぎて、これは書けないな…というものもたくさんありました」

―ちなみに、酔っぱらいのエピソードの聞き込みはやはり本作の版元ということで新潮社の方にされたのでしょうか。

北村「新潮社の方も確かに多いですけど、他の会社の編集者の方にも会うとよく聞いていました。だから出版各社の酔っぱらいのエピソードが集められています(笑)」

―お酒に対する愛情がうかがえる本書ですが、北村さんご自身もお酒をよく飲まれるのでしょうか。

北村「実はあまり飲まないんですよ。だからお酒に対する愛情というよりは、人に対する愛情ですね。
お酒を飲むことで本音や隠していることが出てしまうことがあるじゃないですか。その本音の出方は人それぞれですが、締めていた箍(たが)がお酒で弛むことでドラマが生まれるのではないでしょうか。その本音には、それを語る人や、語らざるを得ない背景などがあるわけですから」

―北村さんご自身のお酒での失敗談がありましたら教えていただけませんか。

北村「酔って記憶をなくしたことはないですし、失敗はあまりないですね。自分が酔っぱらいならこの本を書く必要はないですよ。実行すればいいので(笑)」

―私も酔って記憶をなくしたりはしないタイプなのですが、だからこそ本作で描かれた酔っぱらいの世界が面白く感じられたのかもしれません。

北村「こんな世界があるのか、こんな人がいるのかと思いますよね。色々な人からお話を聞いていると、エピソードコレクションのようになって面白かったです。私の著書ではありませんが、新潮社から酔っぱらいのエピソードを集めた文庫が出ていますよね、『酔って記憶をなくします』と『ますます酔って記憶をなくします』という……」

―本作で北村さんが一番描きたかったものとは、一体何だったのでしょうか。

北村「この作品の舞台は出版界ですが、その中で生きている人々の成長といいますか、右も左もわからないところから段々と育っていく姿だとか、彼らが織りなす人間模様でしょうか」

第2回「いただいたネタをどう小説にするかということを考えていくのはとても面白かった」につづく


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