決して有名人ではない人がネットでは匿名の方が良い理由9個

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ここ数年で従業員がネットに余計なことを書いては企業がクレームを受け、挙げ句の果てには書いた当人も退社や内定取り消しに追い込まれたり、過去を色々暴かれるなど、不幸になることが増えている。至近な例では「契約選手とその妻をツイッターで侮辱社員」のアディダスと「テロ発言社員」の東京電力、その前は「レイプ犯容認内定者」の三越伊勢丹ホールディングス、「サッカー選手とモデル訪問暴露アルバイト」のウエスティンホテル、少し古い例でいえば「ホームレス生卵投げつけ動画を公開内定者」のパナソニック、「恋人全裸写真流出社員」の三洋電機もあった。

ここ数年、「ツイッターで就活を!」「ソーシャルメディアでセルフブランディング!」「フェイスブックは自分の名刺代わりになります!」みたいな論調で日本のネットでも実名主義の方が利点アリといった意見が多数出ている。

日経トレンディ6月号のフェイスブック&ツイッター特集では、フェイスブックの海外戦略を統括するハビエル・オリバン氏のこんな発言も掲載されている。

「日本でも、フェイスブックの普及がきわめて順調に進んでいることを考えると、気がつけばソーシャルメディアは実名が当たり前、通販もソーシャルメディア経由が当たり前、という状況になっているだろう。実名制は、必ず日本を変えるはずだ」

ほかにも実名推進主義者は多いが、そういった方々の大部分は実名で記事をIT系のサイトに書いたりしている。一方、2ちゃんねるなど基本匿名(その場に名前が出ない)の意見を見ると、「日本みたいな陰湿な国で実名晒すのが馬鹿」といった意見も出てくる。

実名で原稿料をもらっている人間にとって「匿名の方がいいです!」なんて言いづらいものではあるが、私自身の結論としてはこうだ。

実名を出せば儲かる人(著名人・会社経営者・フリーランス・店=「A」と呼ぶ)はネットでは実名で情報発信すればいい。ほとんどの儲からない人(世間的にその名前に意味を持たれない会社員・公務員・学生=「B」と呼ぶ)は匿名の方がいい。

普段はものすごく真面目で穏やかなのに、人間なんてものは酔っぱらった時やテンション高い時などにはついネットにバカなことや怒りを書いてしまうこともあるのだ。そのリスクは結構高い。それはAもBも同様である。Aの場合でいえば、ラサール石井の「浅田真央はエッチすべき」がある。

ただ、Aの場合は慎重に振る舞いさえすれば、時にリターンはあるわけで、実名の意味は十分にあるだろう。Bの場合、悲しいかな、普段はいくらいいことを言っていたとしてもなかなかリターンは少なく、一つの失言により全部を失ってしまうこともある。

というわけなので、実名か匿名か悩んでいる「B」の方々に向け、デメリットを9点書く。実名のメリットについては数多くの書籍やIT系メディアの記事でも出ているので割愛。ただし、基本は「実名だろうが匿名だろうが普段から品行方正に振る舞え!」が基本である。ネットは公の場なのだ。


【1】一つの失言で人生暗転の可能性も(冒頭の例を参照)

【2】恥ずかしい発言・写真がアーカイブ化される。自分では消したつもりでもすでに魚拓を取られたり転送されまくり、もはや制御不能に

【3】人間は「イタいもの」をより広げたくなる。一つのイタい発言は広げたくなる

【4】仮に美人だったとしたら、余計なストーカーから待ち伏せされたりするようになる

【5】ブサイクでも、そのブサイクさを勝手に加工されたりあだ名をつけられたりする。まとめサイトも作られ、実名で検索するとその「イタい過去」をすぐに見つけられてしまう

【6】匿名の人からの攻撃を受ける際の材料をあちらは大量に持っているが、こちらは何も持っていないという「非対象戦争」を仕掛けられる。しかも、匿名の人に勝っても徒労感だけが残り、得るものはない

【7】マジメなことを論じたつもりでも、なんだかんだいって文章に知性は現れてしまう。ネットはバカを可視化し、バカのレッテルをいつの間にか貼られてしまう

【8】あの野郎から自分のことを悪く書かれた!と周囲の人が疑心暗鬼を生じたり、会社の同僚に自分が何をやっているかがバレ、「あいつは会社ではグータラなのに……、夜は元気でいやがって……」などと呆れられる

そして、これが最もデカいのだが、

【9】いじめる対象として、相手が匿名では面白くない。実名の方が相手の人生を狂わせることが可能なので「いじめがい」がある。故に実名の人はいじめられやすい

あとは、実名がBの方々に役立つ、と言われていることへの意見を。

【転職に役に立つ】

普通、ネットでその人物の検索をかける際、「いいこと」よりも「悪いこと」を探したくならないか? いいことは面接で言うだろうし、エントリーシートに散々書いてあるわけだ。ネット検索はむしろ悪い材料を探すために使うもの

【知り合いに出会える】

学生時代の友人など、電話番号やらメールアドレスはすでに知っていたというのに別に会わないもの。なぜネットの実名登録をしたからって関係が復活するのか。「知り合いに出会える」の本当の意味は、「一度飲み会を開催できるきっかけを与える」である。となれば途端に「知り合いに出会える」のことばは陳腐化する。しょせん人間にとって「大切な人間」の数は限られており、それは「今現在付き合いのある人」。同窓会は一度やればそれっきりになり、発展性はない

【名刺代わりになる】

いやいや、会わなくちゃ人物は分からないでしょう。名刺代わりというか、事前の知識収集ってことでしかない。あと、ネット上にアップした情報ってあまりにもキラキラし過ぎていて実際会った時はがっかりするもの。ましてや一緒に仕事すると「あの華麗なるプロフィールはなんだったんだよぉぉ!」と嘆くことだらけ

【会いたかった人と会える】

匿名でもまともな発言を普段からしていれば、意外に会ってもらえるもの。実際に会った時まで匿名の人は滅多にいないので、「実名だから会える」ということは特にないのでは。「実名の人としか会いません」という人はオレはあんまり好きじゃないな

私は「お前が実名がいいっていったから実名にしたら炎上しただろ!」なんて言われるのは面倒臭いので絶対に「ネットは実名でやりましょう!」「実名制は、必ず日本を変えるはずだ」なんて恐ろしくて言えません。

文/中川淳一郎(ネットニュース編集者)



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