ホンダCR-Z。いかにも速そうなイメージがウェッジ・シェイプ。



クルマのボディを側面から見ると、いろいろな造形を見ることができますね。とくに最近でも多いのが、ウェッジ・シェイプという形です。ウェッジとは“くさび”のこと。くさびといってもピンとこない方もいるかもしれませんが、V字型の木材や金属でつくられた道具で、石などを割ることや組木などほぞの隙間に打ち込んで、ゆるみをなくす役割を果たすものとして用いられてきたものでした。わかりやすいところでは、家などで開けたドアを閉まらないようにするために、床とドアの隙間に押し付けるストッパーもくさびの一種といえるでしょう。その尖った先端をフロントに見立てて、リアにいくほどに厚くなる形のことを、ウェッジ・シェイプと呼んだりします。



トヨタ・プリウス。徹底した空力性能実現にも有利。


 


基本的には、空気抵抗を小さくする造形を作りやすいことから重宝されています。また最近では空間効率の観点からもアップライトな姿勢がトレンドとなり、ルーフが高くなる傾向にありますが、その背の高さを意識させない効果もあるようです。さらに、もうひとつ最近では歩行者保護のためにボンネットが高くなる傾向にありますが、フェンダーまわりからウェッジの造形を作ることで、ボンネットのボリュームを意識させないようにしているクルマもあります。またこれらは室内にも有利に働き、後席の頭上空間やトランクスペースを広く確保することにも貢献します。ただしリヤセクションを長く取ると、後方視界が悪化してしまうために、あまりリア・オーバーハングを長くできない形でもあります。


 



ウェッジ・ラインを流行らせたともいえるBMW。現行の5シリーズではややリアを下げる優雅なライン。



新型USシビック・セダン。ボンネットからAピラーに続くワンモーションフォルムには、ウェッジ・シェイプは理想的。



マツダ・アテンザ。フロントフェンダーの造形やボンネットの高さとのバランスを取るウェッジ・ライン。



トヨタ・ヴィッツ。最近の2ボックスではウェッジは定番。


 


現代ではそれほど直線的にあからさまなものはなく、サイド・ウィンドウのラインが前傾していたり、セダンではドアハンドルの位置でリア極端に高い位置にあったり、トランクリッドが高いモデルなど、気が付けばウェッジ・シェイプだったという感じのようです。


 



ランボルギーニ・カウンタック。60年代後半からウェッジ・シェイプを取り入れたスポーツカーが誕生。非現実的な造形に圧倒された。



アルファロメオ155。アルファロメオは70年代の2代目ジュリエッタなどからセダンにもウェッジ・シェイプを採用。その後75など、しばらくそのフォルムを継承。



このウェッジ・シェイプは、60年代末頃からイタリアのカロッツェリアがスポーツカーのデザインに施しきわめて前衛的なモデルを生み出したのがその走りでした。それらはその後、イタリアのセダンなどにも受け継がれていったのです。それ以前に主流だったのは、逆にリアにいくにしたがって下がって(すぼまって)いく形でした。古典的なクラシックカーのフェンダーラインの造形をイメージしたような形でもあり、クルマのスタンダードな造形だったともいえるでしょう。


 



ジャガーEタイプ。いわゆる流線型の、スポーツカー・スタイルを確固たるものにしたモデル。



メルセデス・ベンツ300。50年代より以前のフェンダーがボディと一体化する前のモデルのイメージを、ボディサイドの面構成で継承。いわゆるクルマらしさが、この造形だった。



 


そのフォルムを現代でも継承しているのがロールス‐ロイスです。


かつてよりロールス‐ロイスは止まっていても走って見える造形として、リアが下がって見えるフォルムを好んで採用してきました。それは走り出す瞬間の後輪に駆動がかかった姿勢をイメージさせる力強い表現です。ウェッジ・シェイプとは対極にある形として、ゆったりとした力感が優雅さをも表現したようです。



ロールス‐ロイス・ファントムEVエクスペリメンタル 102EX。EV仕様の研究モデル。優雅なサイドビュー。


 


ロールスに限らずかつてのクルマを見ると、その優雅さを再認識します。たとえば60〜70年代のスポーツカーには典型的なモデルが多く、サイズとしては現代からは想像できないほどに小さいにもかかわらず伸びやかさを表現できています。ポイントは長いリア・オーバーハングで、それによってリアエンドを小さくまとめることができます。ただし、荷室やリヤシートの空間は小さくなりがちです。


 



アルファロメオ・ジュリア1300GTA。実際に見ると非常にコンパクト。それでいて伸びやかなエクステリア。



ジャガーXJS。リアを下げたスタイルは、ジャガーの70年代のクーペに限らずセダンでも現代まで継承。



 


それでも少しずつではありますが、ウェッジ・シェイプから脱したモデルが登場し始めているようです。アウディにはまさにその傾向にあるようですが、いくつかのコンセプトカーにも傾向が見えているように思えます。ウェッジ・シェイプはその造形から顔に回り込むと吊り上ったヘッドライトを持ちやすく、タイヤの踏ん張り具合といい、肩に力が入ったクルマになりがちです。その点、逆ウェッジ的(と言っていいのかな?)なクルマは、ロールス‐ロイス的な表現は別として、繊細な形をも生んでくれそうな期待感があります。クルマには強い表現ばかりでなく、そろそろナイーブな面があってもいい、なんて思ったりします。もちろんまたすべてがそうなってしまうと、面白くないんですけどね。



アウディA7。



メルセデス・ベンツCLS。



ベルトーネのジャガー・セダンに向けたコンセプトモデルB99。ジャガーらしさにとって、サイドビューはきわめて重要。


 


(MATSUNAGA, Hironobu)




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