『T京マンガ』座談会(3/5)「この作品に対する周囲の反響は?」

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【漫画座談会について】漫画に関係するゲストを迎えながらTwitterやメールなどを活用して座談会を不定期におこなってます。前回の漫画座談会はこちらからどうぞ。(企画:深水英一郎、編集サポート:古街、ニコラシカ)


●参加者
喜多野土竜:元編集者・漫画原作者
一色登希彦:漫画家。「日本沈没」「モーティヴ」「ダービージョッキー」等
スチームトム:新人漫画家。社会人生活を続けていたが、2010年に突如仕事を辞め独立。ゼロから漫画家の道をスタートしたばかり。この座談会の進行役
タマ:漫画家志望の学生
とと:漫画家志望の学生
岡本健三郎:原作者志望の大学院生(新人賞受賞歴有、博士後期課程)

●『T京マンガ』座談会(3/5)「この作品に対する周囲の反響は?」

質問3
『T京マンガ』が発表されて、周囲の反響はいかがでしたか?


たま:
同学科の人では、ショックを受ける人も何人かいましたが、「何を今更」とあきれたり自虐的にネタにする人の方が多かったように思います。

とと:
同学科内でのことしか私はわかりませんが、落ち込んでいる人間が周りには多少なりいました。後はあまりよく知りません。

喜多野:
けっこう冷めているなぁ(笑)。でも、あの作品を読んだ時に、主人公に共感するタイプと山下さんに共感するタイプに、読者は分かれるんじゃないかと思います。『Twitter』を見ていて、プロのマンガ家の反応は「こういう勘違い野郎が、たまにアシスタントに応募してくるんだよなぁ」という感じのものが多かったように思います。

T京K芸大学マンガ学科に限らず、好きなだけで適性も努力も考えずにマンガ家になりたいって憧れを振り回しても、子どものないものねだりと一緒なんですよね。プロになった人は、努力なんて当然の如くやって、それでも自分より若い投稿者が「生まれて初めてペン入れしたマンガでデビューできて驚いてます」なんてデビューコメントと共に、追い抜いていく経験をしている訳で……。そういう甘さに苦笑したり怒ったりしている感じではないかと。

ショックを受けてる人間はまだマシで、ショックすら受けない感性の鈍い困ったちゃん予備軍が多いんじゃないか……と危惧したんですが、わりと冷静に受け止めているんですね。

岡本:
個人的には結構ショッキングな作品でした。知人は「まぁ本当に4年間本気でマンガ描いてたなら、一次選考も通らないってことは普通ないと思うんだけどねぇ」と言っていました。自分も大体同意見です。

喜多野:
そう、一次選考は取りあえず基本的なルールを押さえておけば、突破自体はそんなに難しくないと思います。自分もマンガ賞の担当を何年かしたことがありますが、一次選考ではねられるのは“既成作の影響を受け過ぎていてオリジナリティーが感じられない作品”や“何を書いているのかわからない作品”や“他人に読ませるということをまったく考慮できていない作品”であって、絵柄かストーリーに多少なりとも見所があれば、編集部員の誰がどんな評価をするかわからないので、そうそう落とされないものです。

ただこれもよく言うんですが、東京大学に入れる人間は毎年3000人ちょっといるけれど、マンガ家としてデビューできるのは300人いるかさえわからない。その中で、さらに『ジャンプ』でデビューできるのは年間20人もいないわけですから。極論ですが、「マンガ家目指すより東大目指すほうが確率的に10倍以上楽だけど、そういう狭き門だって自覚があってマンガ家目指してますって口にしていますか?」と。

東大卒(例え中退でも)は一生モンの肩書きですが、そうやって運良く『ジャンプ』でデビューしたものの、消えていったマンガ家がたぶん90%ぐらいですからね。また、どんな才能ある作家も、デビューした雑誌をいずれは離れていくものです。いろんな媒体でなんとか一日でも長くマンガ家をやりたいと、必死で仕事を探して描かれているプロから見たら、「ただの憧れだけで“ジャンプ”目指してる時点で、状況判断もできないしマンガ家の適正もないんだよ」ってシニカルな気分になるんでしょう。

スチームトム:
社会人生活を続けていると、いかに東大出が優位かということを身にしみて感じます。
つまり将来のことを本気で考えるならマンガだけってのはかなり危ないってことですね。

喜多野:
じゃあ、どうするかって問題はありますけどね。教員資格とか、何か他の資格をダブルスクールで身につけるか。『Photoshop』や『Illustrator』の技術を身につければデザイン事務所とかの就職は有利かもしれませんが、大学や専門学校はそういう“セカンドベスト”を考えていない場合が多いんじゃないかと思います。

ちなみにトムさんは、在学中の卒業後の進路とか、具体的に考えていましたか? 芸術系大学の卒業生の実態とか意識など、個人的に興味があります。

スチームトム:
僕は映画コースでしたが映画の道に進むつもりはなく、最初からマンガ家志望でした。でも在学中は、絵コンテとかシナリオがメインで、そこまでマンガは描いてませんでした。

喜多野:
島本先生も、アニメとマンガの間でずいぶん揺れ動いていた様子が、半自伝的作品である『アオイホノオ』でも描かれていますよね。自分の学生時代を振り返っても、有り余る時間の中で切迫感なく時間を浪費してしまっていた感じですから。

スチームトム:
卒業後、マンガ家をめざそうと一心不乱にマンガを描き始めたのですが、親の会社が倒産してニート生活できなくなったので、すぐに就職しました。マンガ家を素直にずっと目指せる人が羨ましいですよ。

喜多野:
結果論ですが、状況が変わって本当に自分が目指したいものとかが明確になったのは、良かったんじゃないでしょうか。どんなに恵まれた状況でも、本人の必死さがないと熱量は生まれないし、厳しい状況でも本人の熱量があれば突破でますから。

昔担当していた投稿者は会社勤めでしたが、締め切りに間に合わせるために会社のトイレの用具入れに原稿と道具一式を隠しておいて、トイレに行くふりをしてトイレの壁に原稿押し当てて、5分とか10分の時間を惜しんで1コマでも先に進めました。会社からすれば困った社員(笑)。でもけっきょくデビューの壁を突破するのは、そういう過剰な熱量のような気がします。

(つづく)

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