『T京マンガ』座談会(2/5)「マンガ学科の授業は本当につまらない?」

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【漫画座談会について】漫画に関係するゲストを迎えながらTwitterやメールなどを活用して座談会を不定期におこなってます。前回の漫画座談会はこちらからどうぞ。


●参加者
喜多野土竜:元編集者・漫画原作者
一色登希彦:漫画家。「日本沈没」「モーティヴ」「ダービージョッキー」等
スチームトム:新人漫画家。社会人生活を続けていたが、2010年に突如仕事を辞め独立。ゼロから漫画家の道をスタートしたばかり。この座談会の進行役
タマ:漫画家志望の学生
とと:漫画家志望の学生
岡本健三郎:原作者志望の大学院生(新人賞受賞歴有、博士後期課程)

●『T京マンガ』座談会(2/5)「マンガ学科の授業は本当につまらない?」

質問2
授業がつまらないというようなことが描いてありましたが、そのあたりについても何か詳しいお話をお聞かせいただけますか?


タマ:
一番メインの授業となる制作演習がつまらなかったというか……自分の身になる知識や技術がついた実感もなく、途中からはいかに労せず授業をこなし単位を取得できるか考えていました。
受講して有意義だと思えた授業もありましたが、その数が少ないのが悲しい話です。

スチームトム:
大阪芸術大学もそんなようなもんでした。単位を取るために代返のオンパレードですよね。10の声色で代返してくれる先輩がいたり……(笑)。
でも、さすがに小池一夫先生や中島貞夫監督の授業は受ける側の熱が違いましたね。

喜多野:
それはやっぱり小池一夫先生や中島貞夫監督だと、知名度と実績が違いますからね。自分だって学生時代、そのお二方の講義だったら偽学生になってでも聞きたかったでしょうね。タマさん、個人的に有意義になった講義について、差し支えなければお聞きしたいです。たぶん、この記事を読むマンガ家志望の方達にも、指標というか参考になるかもしれないので。

●有意義だと感じた授業とは

タマ:
一番興味深かったのはネームの分析授業ですね。今まで無意識に描いていたコマ割りなどを理論的に見ていく、ということはしたことがなかったので。

喜多野:
なるほど。学生って絵が描ければマンガは事足りると思っているので、ネームの言葉を磨いたり、構成とか演出を客観的に分析すると、目からウロコが落ちる人は多いでしょうね。

とと:
メインの制作演習は、本当にマンガを描いてる人間にとってはごく当たり前なところから始まって、多少なりしっかりした原稿を描いてる人間にとってはとても拍子抜けするような退屈な内容だったと思います。私は志の違いをここで痛感しました。

喜多野:
マンガには、一般の人が考えるよりはるかに多くの技術と知識が必要なんですが、作風によってその必要とされるモノがぜんぜん違うんですよね。西原理恵子先生のようなタイプに必要なのは最低限の作画技術であって、後は優れた感性で切り取るための素材が重要。それは東南アジアでゴミ回収をして生計を立てる村を訪れたり、出家してみたりとか、結婚や出産といった経験ですよね。

でも、ある学生にとっては必要なのは背景をきっちり描く技術であったり、魅力的なキャラクターを作る方法論であったり、伏線の張り方と回収の仕方のバランスの取り方であったり、100人の生徒がいたら100通り……いや1万通りの必要な物の組み合わせがあるわけで。そこをたくさんの生徒相手に概論的にやろうとしたら、どうしても低いレベルの生徒にあわせざるを得ないですよね。そうなると、やる気のある生徒が犠牲になる側面があるかもしれません。

とと:
他の授業に関しても賛否両論とありますが、専門学校ではなく大学としての授業と考えれば許容できる授業のように個人的には思います。あくまでも、実践的なことよりはノウハウや歴史などをメインにしていればつまらないと思うのは仕方のないことだと思うので。

喜多野:
斉藤むねお先生に言わせると、マンガの基礎教養としてはデッサンと工業製図の技術、彫塑に美術史の知識は最低限必要だよ、と。逆に、年表のような無味乾燥なマンガの歴史を講義でマンガ史と称して教えられても「それはどこまでマンガに必要なんですか?」と、疑問には思うかもしれませんね。

岡本:
自身の経験ですが、一般大学の授業もつまらないですよ(笑)。でもそれはただ何も考えず自分が授業に出ていたからだと思うのです。現在自分は大学院生でもあるのですが、学部時代を振り返ってみると、意外に面白かったんだろうなぁ、という授業は多々あります。

喜多野:
それは岡本くんが院生だから、大学の講義自体を客観的に見られるようになっているからって点も大きいかも……。例えば自分は大学の講義で古文書とかを読んで、変体仮名とかを勉強しましたが、その時は実際の役には一生立たないだろうなぁ……と思っていました。でも原作者になって歴史物とか書く時、これほど役に立った講義もないわけで。そういう意味では、マンガってのはどんな学問も応用できる珍しいジャンルだなと思います。

●漫画以外のものの大切さ

岡本:
自分に足りない知識、技術は何かという自己分析をしっかりされて授業選択をされるのが理想ではないかと思います。ただ、ととさんの仰るとおり、自分の既に得ている技術に関しての授業はどうしてもつまらないでしょうね。

喜多野:
本当に作品作りに取り組めば、作画技術ってのはただの枝葉なんですよね。でも、投稿者段階ではそれがなかなかわからない。自分が考えているこの素晴らしい作品アイデアに、○○先生のような画力が付けば、すぐデビューできて、連載もらってヒットして……と夢想しがち。実際はそんなことはなくて、プロでもネタづくりに呻吟(しんぎん)するわけです。

例えばトキワ荘プロジェクトの『漫画家白書』を読みますと、アマチュアは“マンガをたくさん読むこと”がプロデビューに重要だと考え、プロは「マンガ以外のものをたくさん身体に入れろ」とアドバイスしていますね。ところが投稿者にはなぜプロがそんなことを言うかが、わからない。手っ取り早く身について、すぐに使える技術を欲しがる。大学の退屈な講義も、作品づくりに必要な人間的厚みをつけるためには重要なんですけれども、それはなかなかわからないかも。

あるマンガ家さんは学生時代、シナリオ学の講義を大学で受けたとき、「ト書きの書き方とか箱書きの方法とか、そんなのはシナリオを書くためには重要じゃないんだ。それよりも、1日に14人以上の人間と話をすることを1年以上続けることのほうが、重要なんだよ」と言われたそうです。学生時代はピンとこなくても、プロになったらその教えが生きたそうです。

人と話すということは、いろんなタイプの人間と会話し、相手の話を聞き、また聞いて……と。会話のキャッチボールが継続できる話題の豊富さとか話術とか、口下手でも話を聞かせたいと思うような人間性とかがないとダメですから。そこでチラッと聞いた体験とかが、10年たってある時突然「あ、あのネタはこのエピソードに応用できるかも!」となったりしますから。長くマンガ家を続けるには、そっちの人間的厚みのほうが絶対大事だと、自分も思います。

スチームトム:
“マンガをたくさん読むこと”がプロデビューに重要だと考え、プロは「マンガ以外のものをたくさん身体に入れろ」。これはあらゆる業界で通じる考え方ですね。

喜多野:
マンガに特化した知識だけ求めると、行き詰まりやすいですよ。それって、野球で言えば、高校生に手っ取り早く筋トレさせて、金属バットに特化した打撃を教えるようなものでしょう。金属バットだと、バットの芯で球を捉えなくても飛ぶし、筋トレでパワーつければなおさらです。でも甲子園という世界では通用しても、プロになってからは通用しない選手が多いですね。

PL学園では逆に、芯で捉えることの重要性を教えるために、最初の年は青竹でボールを打たせるそうです。青竹では木製バット以上に芯で捉えないと、球が飛びませんから。でも、そうやって身につけた技術はプロでも通用する基礎となるわけで……。日本人は、どうも促成栽培と英才教育を履き違えている気がしますね。だから、高校や大学レベルでは世界にそこそこ伍(ご)して戦えても、プロレベルになった途端に雲泥の差がついてしまうのではないかと。マンガ教育でも同じ間違いをやらかしてないか……と思っています。

手前みそになりますが、自分と斉藤むねお先生が『マンゼミ』を始めた理由のひとつに、初心者にも基礎として理解できて、なおかつ中学や高校ぐらいからペンとインクでマンガを描いていて多少わかったつもりになっているような投稿者の鼻っ柱を折れるような内容ができないかとたくらみまして(笑)。でもそれは、一種の名人芸みたいなもので、『マンゼミ』でやってることの裏には、基礎的なことを網羅した上での“精華”の部分を出していますから。やっぱり基礎からちゃんと積み上げて欲しいというのが、切実な願いです。

スチームトム:
基礎でありながらプロもうなるような内容ですか〜。難しそうですね。
関係ないんですがPL学園の花火は日本一の火力なんですよ。
ラストの爆発は圧巻です。えっと関係ないので次の質問に行きます。

(つづく)

【企画:深水英一郎、編集サポート:古街、ニコラシカ】

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