「現在報じられている『機構』は最悪の選択肢」――”古賀プラン”最新版(前篇)

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新生東電はどうあるべきかという議論が活発化してきていますが、そのたたき台のひとつとして経産省の古賀氏による「古賀プラン」があります。少しずつ改訂されている古賀プランですが、その最新の状況を確認すべく古賀さんにお話をうかがいました。(ききて:ガジェット通信 深水英一郎)


古賀茂明さん(経済産業省 大臣官房付)
ダイエー、カネボウなど事業再生のプロフェッショナル。昨年末公務員改革に及び腰の民主党と衝突し、現在閑職に。まさに「戦う官僚」。

●新生東電について

――東電再生のプロセスはどうあるべきだとお考えですか?

現在報じられている形、つまり、新たに「機構」をつくり、長期にわたって東電に支払い義務を課しながら、政府・政治家が東電の経営に影響力を持ち続ける形というのは、最悪の選択肢となる可能性があります。今言われている「機構」をそのままつくれば、数年後には天下り機関となります。

また、このままだと政争の具となるおそれも強いです。ですから、通常の事業再生と同じく、その道のプロに再生計画づくりを任せて、政治は口出しをしないことです。支払責任は企業価値の範囲で負わせ、将来的には日本の電力産業の発展の一翼を担う企業にしていくことが最も望ましい「新生東電」としての形だと考えます。

「東電憎し」という方も多いと思いますし、その気持もわかります。しかし、今の東電は憎んだとしても、再生後の電力事業は、今の東電ではなく、新たに創造された事業だと考えて、「新生東電」には、元気に世界の先端に立つ電気事業会社として発展をして欲しいと、発想を変えていく必要があると思います。そういう風に発想を変えていかないと、結局国民が損をすることになります。

●大震災は「異常に大きな天災地変」だったのか?

――政府は「一義的に東電の責任」と繰り返していますが、果たして責任は東電と政府のどちらにあるのでしょうか。

そもそも津波の危険性、全電源喪失の際の危険性は数年前から指摘されていました。その事実を踏まえれば、「異常に巨大な天災地変」と認定するのは難しいのではないかと思います。

「異常に巨大な天災地変」でなければ東電に責任があります。これは無過失責任です。しかし、東電から見れば、政府が言ったとおりにやってきたのだから自分に過失はなく、むしろ政府に過失がある。百歩譲っても双方に過失があって東電だけが責任を負うのはおかしい。つまり、本来は政府にも国家賠償責任が生じていたはずなのを全部自分が被ったのだからということで、政府に求償するという考え方も出て来る可能性が高いです。

●まずは被災者のことを考えて

――被災者への賠償に関してはどちらがおこなうべきでしょうか。

賠償金を支払うのが「東電」なのか「政府」なのかという話は、被災者からするとどうでもよい話です。ですので、これは原子力損害賠償法を改めてどちらにでも支払いを求められる形、「連帯債務」にすべきです。

●既に破綻している東電

――東電は補償金を東電だけで払うのは難しいと言っていたが、これは何を意味するのでしょうか。

普通、企業経営者が払うべきものを支払えないというのは企業が破綻した時だけです。払うべきものを払えないのであればそのまま取引を続けさせるわけにはいきません。債権者もしくは東電自身で会社更生や民事再生の申し立てをするべきです。もしくは、被災者が会社更生手続きの開始を求め、裁判所に申し立てをしてもよいはずです。

その他のやり方としては、

・原子力損害賠償法を改正し、政府が被災者に代わって会社更生の申し立てをおこなうことができるようにする

・特別法をつくって今回の事故に限定してある日以降は会社更生手続きが開始されたのと同様の効果を発生させる

・被害者の立場に立つ自治体が会社更生法の手続き開始の申し立てを行って、自治体の債権と被害者住民の債権の保全をする

などが考えられます。

●破綻処理を行う際の責任の順番

――東電の破綻処理はどのような順番で進んでいくべきでしょうか。

以下のように進んでいくべきだと思います。

・東電という企業自身のコストカット

・経営陣:役員全員の退任、年金返上、退任までの給与の全額返上、相談役・顧問等の非常勤ポスト全廃

・リストラ:人員削減、給与削減(一般の企業並にする)、福利厚生の引き下げ、社宅・保養所の廃止、年金の減額。福島原発の現場で作業にあたっている方は例外とし、待遇を改善

・資産売却:本社、支店、営業所等の不動産売却と移転。子会社売却。本社は福島へ移転すべき(被災者対応専念のため)

・原発推進のための引当金、積立金を解除

・株主責任:100%減資

・銀行の債権をカット

・被災者補償債権もカット(国が払う)

●東電が払いきれない補償金をどうするか

――先ほど、東電の被災者補償債権もカットするというお話がありましたが、この部分は?

補償額が巨額になると、東電の支払い能力を越えますから、補償債権もカットの対象とせざるをえません。しかし被災者への補償は必要ですのでこれは国が負うということになると思います。つまり最終的には国民が負担を分担するということになります。形としては電気料金か税金で、ということになります。
電気料金の場合、まずは東電管内。そして原発の恩恵にあずかっていた沖縄以外の電力会社の需要家に負担してもらう形がよいのではないでしょうか。
課税の場合、所得課税や資産課税も考えられます。

ただし、これを行う前に、政府、すなわち、経産省等の責任も問わなければなりません。歴代幹部の責任を東電幹部の責任同様問わなければなりません。

●電力供給を止めないために

――これらの処理の過程で「電力を止めない」というのが最重要課題となると思います。どうやってそれを実現するのでしょうか。

冷静に考えると、自分たちで事故を起こした上で料金の値上げをいいだすなんておかしな話ですし、他の業界だったらありえない話です。これは東電が独占企業だからできることですね。事故を起こしても、毎日多額の料金収入が得られます。そのあたりは他の企業とは本質的に違います。

ただし、もし信用不安が起きれば、「電力を止めない」という目的が達成できなくなる可能性もあります。これを防ぐためにも、会社更生手続きが開始され、財産の保全命令が出される、という状況をつくるのが重要になってきます。この財産保全をおこなわないと、被災者の方へ支払うべき弁済のための原資が勝手に使われてしまうということもありえます。例えば銀行の債権で、たまたま先に弁済期限が来たものから順に弁済されるということになってしまう可能性もあります。被災者から見れば極めて不公平なことが起こるのです。

その上で、電力供給に必要な資金調達には政府が責任を持つという仕組みを作ることです。もちろんそれによって政府が東電に持つことになる債権は最優先弁済するということにしておかなければなりません。

会社更生法と企業再生支援機構を使う場合は、「管財人」がその後の東電の経営管理を行うことになります。また、「東電経営監視委員会」のような独立の組織を設けて、そこが管財人のような役割を果たすことにするという方法もあります。

このような措置をとっていくことにより、資金調達の不安もなくなりますし、これまでのような独占による放漫経営で資産が勝手に使われてしまうということも防止できます。そしてなにより、電力供給が止まる、ということがなくなります。

実際、JALはこうした方法で再生をおこないましたが、飛行機が止まることはありませんでした。「大停電」を脅し文句にした策略に政府は乗せられているようですが、ここは毅然とした態度で混乱に終止符を打つべきです。

(つづく)

写真:東京電力本社(千代田区内幸町) / kawanet

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