大宅映子「日本は上を総取替えしないとダメ」〜映画『RED/レッド』
 超豪華スター共演のサスペンス・アクション大作『RED/レッド』。静かな引退生活を送る元CIAの男が、敵に襲われたことで、現役時代の血が騒ぎ、かつての仲間と共に黒幕を突き止めるというストーリー。この作品では、「若者に負けないぞ」とばかり年配達が活躍する。元MI6の女スパイのヴィクトリア役として活躍するヘレン・ミレンもその一人。今回は、そのヘレンにも勝るとも劣らない程、精力的に活躍する評論家大宅映子さんに『RED/レッド』から見る組織の体制や危機管理について聞いてみた。

――『RED/レッド』をご覧になった感想をお願いします。

大宅映子(以下、大宅):私は映画っていうのは、割とこういう単純な方が好きです。今までで好きな映画と言われると『お熱いのがお好き』と『太陽がいっぱい』と『オーシャンズ11』。あんまり難しげなものよりも、単純に「ああ、面白かった」と言って劇場を出られるものが好きなんです。これはそういう感じの映画だと思います。

――笑って観られる映画ですよね。

大宅:だから、いいんですよね。これだけの役者を揃えて、そこがまた面白いでしょ。ヘレン・ミレンとか、アカデミー賞女優が、ババババッて、マシンガンを撃つなんて、爽快感があります。

――マシンガンを乱射するシーンもそうですが、副大統領が絡むなど、過激な部分がありますよね。

大宅:海外の映画って、そういう部分が平気なんですよね。日本でちょっと角栄さんをモデルにするなんて言ったら、すぐおじゃんになっちゃうし、天皇陛下もダメだったし。アメリカはそういう所すごいですよね。大統領が何かやったりする映画を平気で作っちゃう。

――豪華キャストでしたが、その中で特に気になった人物はいますか?

大宅:やっぱりヘレン・ミレンかしら。でも、ヘレンとブライアン・コックスのカップルはピンとこなかったけどね。ブライアン演じるイヴァンが、なんか一歩引いている感じがあったから、もうちょっと自己主張しても良かったんじゃないのかなと思います。ソ連出身という設定なんだから、もう少し「西側じゃないものを持っていたからヘレンが引かれた」ということがあった方が面白いかな。

――ヘレン・ミレンのどのような部分が1番良かったと思いますか?

大宅:彼女は、映画『クイーン』のエリザベス女王演じたイメージがあるけど、まさに「イギリス人」っていう感じがある。「アメリカ人」とは違う何かを持っている。

――アメリカ人とイギリス人の1番の違いは何だと思いますか?

大宅:アメリカ人だとどっちかというと「明るいだけ」というところがあるけど、イギリス人だと「深み」がある感じがするんです。やっぱり、歴史の深さが基本的に違うと思う。伝統を大事にするので、そんなにしょっちゅう何かを取り替えようとか、そういう感じがヨーロッパの人にはないですね。アメリカ人は割と良いものがあるとすぐ取り替えればいいじゃないっていうのがあるけど。

――大宅さん自身が、イギリスに行った経験からそう感じられたのでしょうか?

大宅:1968年に、父が招待を受けたので、秘書と称して付いていって、1ヶ月半くらいイギリスを回りました。世界一のタータン・チェックの工場を見に行ったら、町工場みたいにトッテンカントッテンカンやっているわけ。これが世界一?って。日本だったら、それだけ売れたらオートメーションにして、大きくして、もっと売るということをするだろうけど、そうしないの。どうしてなのか聞いたら、「どうしてそうしなきゃいけないんだ?」と逆に質問され、「これで十分だ」と。それはものすごく印象に残っていますね。日本人は、「捨てて、取って、変えちゃう」っていう感じがあるでしょ。そうじゃないんですよ。

――「拡大しなくても十分やっていける」ということは、伝統を重んじる気持ちからも出る言葉なのでしょうね。

大宅:大人っぽいですね。戦後の日本はもう少しヨーロッパ的なもの入れておいた方が良かった。アメリカに向き過ぎていたかなと思うんですよ。大量生産して、消費して…。もともと持っていた日本人の「もったいない」と思うとか、古いものを愛する精神とかなくなりましたね。ヨーロッパはそうじゃないですもんね。俳優さんを見ていても、やっぱりちょっとイギリス人は違うと思いますね。

――『RED/レッド』の男性陣についての感想をお願いします。

大宅:ブルース・ウィリスは『ダイ・ハード』観た時に面白いって思って。あれは設定が面白かったですよね。女房と別々で働いていて、その頃の話としては面白かった。モーガン・フリーマンは好きですけどね。『最高の人生の見つけ方』が大好きですね。割と良い役やる人じゃないですか。マルコヴィッチは、ちょっと漫画チックになっているかな、と思いましたね。

――この3人の「父親度」を採点するといかがですか?

大宅:ジョン・マルコヴィッチはやっぱり危険ですよ。あまり親になって欲しくないです。ブルース・ウィルスもあんまり親父としては無理だと思う。家庭じみてはないイメージですね。モーガン・フリーマンは良いですね。