■ネルシーニョ・マジックは今年も健在

昨季から百発百中の的中率を誇るネルシーニョの見事な采配には常々驚かされていた。ここまで3勝1敗で2位につける柏だが、勝利を呼び込む“ネルシーニョ・マジック”は、どうやら今年も健在のようだ。

開幕前、サッカー関係者の間では柏を“ダークホース”に推す者も少なくはなかった。ところが、そんな前評判とは裏腹に開幕直前には幾つかの不安要素を覗かせることとなる。昨年夏の加入以降、爆発を期待されているFWホジェルをチームにフィットさせるため、ネルシーニョはプレシーズンマッチでは彼を前線の軸に据えるも、これがあえなく不発に終わる。また、サンパウロから獲得した新戦力ジョルジ・ワグネルを中盤で起用したが、連携不足の感は否めず、柏のパスワークは鳴りを潜めた。

結局、プレシーズンマッチは低調なパフォーマンスに終始。千葉、水戸との試合をともに0−1というスコアで落とし、「2トップの組み合わせ」と「ワグネルのポジション」に不安を残した。水戸戦後、「自分としては良い観察ができたし、見るべきものがあった」と記者会見の場でネルシーニョが残した言葉は、チームの低調を悟られまいとする一種の“強がり”に似たものではないのかとさえ思った。

だが老獪なる策士は、低調に終わったプレシーズンマッチとは似ても似つかぬチームを開幕戦に送り込むのである。

■開幕の清水戦、2トップに名を連ねたのは意外な選手だった

ホジェルの不発によって、北嶋秀朗、林陵平の2トップに戻すのではないかと思われた開幕の清水戦。意外にも2トップに抜擢されたのは田中順也と大津祐樹だった。昨季、一度たりとも試していないだけに、この組み合わせには驚かされたのだが、よくよく考えてみれば、この2人は互いに「プレーの波長が合うのでやりやすい」と連携の良さを述べており、実際に2年前の浦和戦ではコンビを組んで4−1という大勝の原動力にもなっている。

ひょっとしたら、昨年は大津の長期戦線離脱で実現に至らなかっただけで、ネルシーニョは田中&大津の2トップを選択肢のひとつとして思い描いていたのかもしれない。それにしても、J2優勝に大きく貢献した北嶋と林を差し置いての起用には、それだけではない重要な意図があるのではないか、それを訊ねた時、指揮官からは次の答えが返ってきた。

「ライン設定の低いJ2のチームならばクサビのパスを入れた攻撃が有効になるが、ラインの高いJ1チームの場合は逆にそこを狙われカウンターを招く。クサビのパスが命取りになりかねない。スピードのあるFWで相手のDFラインを押し込む」

おそらくこれは、北嶋、林らポストプレーヤーを起用しないという意味ではない。北嶋の言葉を用いてネルシーニョの意図を補填すると「J1とJ2はプレースピードが違う」という。つまり、1年間の戦いによってJ2のプレースピードに慣れているため、J1チームと対戦した場合は、そのスピードに慣れるまでに若干の時間を要する。現に、昨年の天皇杯3回戦・神戸戦と4回戦G大阪戦では、立ち上がりの15分ほどは相手に主導権を握られ、押し込まれた時間帯があった。

■田中と大津の起用が的中

J1復帰初戦、しかもホーム。是が非でも勝ちたい一戦である。キックオフ直後から攻勢を仕掛けたいネルシーニョは、スピードと運動量に長けた田中と大津を起用し、そして狙いが的中する。清水の最終ラインは2人によってグイグイと押し込まれ、全体のバランスを欠き、柏は立ち上がりから清水を圧倒した。さらに、もうひとつの懸念ポイントだったワグネルのポジションについても、当初濃厚と見られていた2列目ではなく、左サイドバック起用と驚きの采配を見せ、同時に中盤にはレアンドロ・ドミンゲス、茨田陽生、大谷秀和、栗澤僚一の昨季と変わらぬ顔ぶれを置き、再び柏らしいパスワークを蘇らせる。