芥川賞受賞作『裸の王様』や『輝ける闇』といった小説のみならず、『オーパ!』などのルポルタージュ文学にも傑作を多く遺した作家・開高健。そんな開高の生誕80周年を迎えた今年、ゆかりの深い大阪の出版社・たる出版から『大阪で生まれた開高健』が刊行されました。

 本書では開高が青年期を過ごした大阪に焦点を当て、開高と大阪に縁のある人々がその思い出を綴っています。なかでも興味深いのが、サントリー株式会社(旧・壽屋)でトリスの名物キャラクター「アンクルトリス」などを作成したイラストレーター・柳原良平さんが語るトリス広告の秘話。

 開高健が作家業と並行し、サントリーのコピーライターを務めていたのは有名です。開高は柳原さんと協力して、当時サントリーの主力商品だった「トリス」を国民的ウィスキーに成長させました。

 数多い開高によるコピーのなかで、柳原さんが「不屈の名作」と称えるのがこちら。

 「人間」らしく
 やりたいナ
 
 トリスを飲んで
 「人間」らしく
 やりたいナ

 「人間」なんだからナ

 現在も広告業界ではコピーの「お手本」として語り継がれる名コピーですが、この文句に開高が込めた意図についてはあまり知られていません。柳原さんは本書のなかでこう解説しています。

 「昭和36年、1頁大の(新聞)広告を制作することになってテーマを話し合った。世の中はあちらこちらに高速道路ができ、マンションが林立しはじめた高度成長の時代がやってきた頃で、なんとなく土と自然が減り、人らしい生活が近代的なコンクリートづくめになってしまいそうな気がした。二人ともその辺に不満があってちょっと抵抗した広告にしようということになった」

 開高は当時、このコピーについて「ちょっと早すぎたかなァ」とボヤいていたそうですが、この広告が掲載されてしばらく経って、各地で公害が発生し、企業の環境破壊がマスコミで大きく取り上げられ始めました。

 こうした世の中の流れを受けて、柳原さんは「『人間らしくやりたいナ』の文章はむしろ今でも生きている、いや今こそ再び開高クンの文章、そして思いが価値あるものとして生きている」と述べています。

 原発事故により、様々な観点から「人間らしい生活」が見直されています。開高健によるこの名コピーは、今こそ再び注目される価値があるものなのかもしれません。



『大阪で生まれた開高 健』
 著者:
 出版社:たる出版
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