よく、中国は「海賊版大国」と呼ばれる。事実、中国では海賊版が極めて多い。映画などは封切とともに海賊版が出回る。道端では公然と海賊版の映画やドラマ、アニメやPCソフトが売られている。コンテンツの著作権所有者側は、巨額の損失を蒙っているだろう。

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中国における日本アニメ 第4回

(1)中国は本当に「海賊版大国」なのか

 よく、中国は「海賊版大国」と呼ばれる。

 事実、中国では海賊版が極めて多い。映画などは封切とともに海賊版が出回る。道端では公然と海賊版の映画やドラマ、アニメやPCソフトが売られている。コンテンツの著作権所有者側は、巨額の損失を蒙っているだろう。

 中国はたしかに、「海賊版大国」である。

 ところが最近、そうした状況に大きな変化が起き始めている。

(2)買われなくなる海賊版“DVD”

 サーチナ総合研究所(上海サーチナ)が2011年4月に中国全土の3000人を対象にインターネット調査を実施、「どのようにして日本のアニメを視聴しますか?(複数回答)」と聞いたところ、最も多かったのが「テレビ(で日本のアニメを視聴する)」で、71.8%だった。

 1980年に中国で初めて日本のアニメが放送されて以来、数多くの日本のアニメが中国の国営テレビで放送されてきた。その影響もあるのだろう、7割がテレビで日本のアニメを観ている(観た)という結果となった。

 ただし、現在、中国は海外アニメのテレビでの放送時間および内容に対して制限を設けている。そのため、現在、テレビで放送される日本のアニメは極めて少ない。

 一方、「海賊版DVD(で日本アニメを視聴する)」が10.4%。アニメに限って言えば、海賊版“DVD”が人気だとは言えないことが分かった。海賊版があふれるとされる中国としては意外な結果だ。

 ではなぜ、海賊版DVDは買われなくなったのか。背景には、インターネット動画サイトの存在がある。

(3)ユーザー数が2億8400万人―急成長する中国動画サイト業界

  中国の「インターネット動画サイト」が勃興期を迎えたのは2005年頃のことだ。業界大手である「土豆」は2005年に運営開始、翌年には「優酷」と「酷6」が運営を開始した。その後も次々に設立され、現在大手とされるところだけでも少なくみても10社以上の動画サイトが存在する。

 CNNIC(中国インターネット情報センター)によれば、2010年12月の時点で、中国本土のインターネット人口は4億5700万人。そのうち、動画サイトのユーザー数は2億8400万人。インターネット人口の増加に伴い、動画サイトのユーザーも急増している。

 これら動画サイトで視聴できるコンテンツは、ほとんどが無料だ。これまでDVDを買ってアニメを観ていた人々は、動画サイトに流れ込んだと考えられる。事実、今回の調査では「インターネットの動画サイト(で日本のアニメを視聴する)」が70.2%となっている。インターネット調査による結果であり、インターネット動画視聴に慣れた感度の高い層が対象とは言え、高い水準の数値と言えるだろう。

(4)中国動画サイト業界で起こる「正規版」化の波

 では、中国の動画サイトで配信されているコンテンツは違法物ばかりかというと、そうでもない。

 一般的に、これらの中国の動画サイトでは、二つのタイプのコンテンツが配信されている。一つは、動画サイト運営側が放映権料などを支払ったうえで配信しているコンテンツだ。これはいわゆる正規版となる。

 もうひとつは、一般ユーザーがアップロードしたもの。YouTube(ユーチューブ)やニコニコ動画と同じように、「優酷」や「土豆」などの多くの動画サイトでも、動画をアップロードし、他者と共有することができる。ただしこれは、著作権所有者側の許可を得ずにアップロードしていれば、違法ということになる。

 2005年から2008年までは、各動画サイトが配信するものは違法にアップロードされたものがほとんどであった。しかし2009年以降、中国動画サイト業界では“正規版”を配信しようとする機運が急速に高まっている。

 例えば、2010年4月に運営を開始した「奇芸」は正規版コンテンツのみを配信する動画サイト。「酷6」「捜狐」なども積極的に正規版の比率を高めようとしている。「優酷」や「土豆」も「正規版化」の大きな波に呑みこまれるように、正規版を扱い始めている。現在、まだたくさんの違法アップロードが存在するものの、正規版の比率は徐々に高まってきている。

 興味深いのは、コンテンツの独占放映権を獲得した動画サイトが、違法アップロードを行っている他の動画サイトを訴える動きが出始めていることだ。動画サイト同士が互いに牽制しあうことで、結果的に違法アップロードが市場から駆除される仕組みが出来上がりつつある。

(5)“正規版も無料”が中国の常識

 ちなみに、中国では正規版も無料で視聴できるのが一般的だ。動画サイト運営側は広告収入を得ることでビジネスを成り立たせている。視聴が無料であれば、ユーザーにとっては「正規版」も「違法物」も同じだ。つまり、中国の動画サイト業界においては、「正規版の方が価格が高いからユーザーに買ってもらえない」ということは起こらない。むしろ、画質がよい正規版の方が人気があるかもしれない。視聴無料という条件下では、違法物よりも正規版の方が有利になるのが、中国動画サイト業界の特徴だと言えるだろう。

 一部には有料コンテンツもあるが、まだ少ない。各社は試行錯誤でビジネスモデルを模索している様子だ。

(6)なぜ日本アニメの「正規版」は少ないのか

 中国動画サイト業界では“正規版”化が大きな流れになっている。ただ、日本アニメに関して言えば、正規版が極めて少ないのが現状だ。

 なぜか。

 一見、いまだにあふれる海賊版や違法物が、正規版の進出を邪魔しているように見える。たしかに、これまではそうだったのかも知れない。せっかく正規版を出しても、消費者は値段が極めて安い海賊版を選んでしまう。これでは正規版を出す気がなくなるのも無理はない。

 しかし、上述したように、状況は大きく変わろうとしている。

 日本の正規版アニメが少ないのは、海賊版や違法アップロードが多いからではない。仮に海賊版がすべてなくなったとしても、何もせずに正規版が増えるわけではない。海賊版や違法物が多いことと、正規版が少ないことは、そもそも切り離して考えるべきだ。

 肝心なのは、日本側が中国で正規版を売ろうとする意思があるかどうかだ。たしかに、商習慣が異なる中国で商売をするのは障害も多いだろう。しかし、いま、アメリカの大手映画配給会社を含め、世界中が中国で正規版を売るための方法を模索している。日本も早く取り組むべきではないか。

 中国では、日本のアニメは他国アニメに比べ、圧倒的に支持されている。これをチャンスと捉え、積極的に方法を模索することが重要だろう。(編集担当:森川慎一郎・サーチナ総合研究所研究員)



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