母乳から微量の放射性物質が検出された件について

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今回はohira-yさんのブログ『食の安全情報blog』からご寄稿いただきました。

母乳から微量の放射性物質が検出された件について

市民団体「母乳調査・母子支援ネットワーク」(村上喜久子代表)は20日、福島市内で記者会見し、福島など4県の女性9人の母乳検査で、茨城、千葉両県の4人から1キロ当たり最大36.3ベクレルの放射性ヨウ素131が検出されたと発表した。

「母乳から微量の放射性物質=市民団体が検査−福島」2011年04月20日『時事ドットコム』
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201104/2011042000827

この報道を受けてかなり不安になっている方もおられると思います。そこで、日本産科婦人科学会の資料を参考にしながら乳児への影響を見てみます。

・ベクレルからシーベルトに換算する

(1秒あたりに)放射性物質が壊れて放射線を出す数であるベクレルは、そのままでは人体への影響はわかりません。シーベルトという人体への影響を加味した単位へ変換する必要があります。今回検出されたヨウ素131甲状腺に集まりやすい特徴があります。甲状腺への集まりやすさを加味したベクレルからシーベルトへの変換式は次の通りです。

ヨウ素131の変換式(単位:mSv)
・大人の場合:ベクレル量×0.00032
・乳児の場合:ベクレル量×0.0028
・胎児の場合:ベクレル量×0.00047 (ここのベクレルは母親の摂取量)

ここに1リットルあたり100ベクレルの水があるとします。この水を毎日1リットル、成人が飲み続けた場合には摂取総ベクレルは100×1.0×100=1万ベクレルとなります。これをmSvに変換すると 1万×0.00032=3.2mSv (ミリシーベルト) になります。

同じ要領で2つの場合について計算してみます。1つは先ほどと同じ100ベクレルの水から粉ミルクをつくり毎日800mlを与え続けた場合。もう1つは今回検出された最大の値である36.3ベクレルの母乳を同じく800ml与え続けた場合。期間はとりあえず100日間で計算してみます。

摂取総ベクレル量
・100ベクレルの水道水からミルクを作った場合 100×0.8×100=8000 ベクレル
・36.3ベクレルの母乳の場合 36.3×0.8×100=2904 ベクレル

シーベルトへの換算
先ほど計算した摂取総ベクレル量に乳児への換算係数を掛けて求めます。

・100ベクレルの水道水からミルクを作った場合 8000×0.0028=22.4mSv (ミリシーベルト)
・36.3ベクレルの母乳の場合 2904×0.0028=8.13mSv (ミリシーベルト)

これでシーベルトへの換算がおわりました。

・安全な甲状腺被ばく量との比較

数字は計算できましたが、これがどの程度安全なのか、あるいは危険なのかよくわかりません。そこで、安全な甲状腺被ばく量との比較を行ってみます。

安全を見込んで、許容される年間あたりのヨウ素(I-131)による総甲状腺被ばく量は成人、乳児、ならびに胎児を含め50mSv とされています。放射性ヨウ素の基準を決めるにあたってこの50mSvをどこから摂取するかを食物だけではなく水や大気からにも割り振っています。

参考にしている日本産科婦人科学会の資料では、50mSvのうち、水から11.1mSv、野菜から11.1mSv、乳製品から11.1mSv、その他の食品から11.7mSv、大気から5mSv 摂取すると仮定しています。ただし、乳児の場合野菜などは食べませんから、ミルクあるいは母乳がすべてであり、許容される甲状腺被ばく量は45mSv程度となります。これは50mSvから大気分の5mSvを除いたものです。

先ほど計算した100日間の摂取量をもとに1年間(365日)摂取した場合にどうなるかを考えます。すると、

・100ベクレルの水道水からミルクを作った場合 22.4×3.65=81.76mSv
・36.3ベクレルの母乳の場合 8.13×3.65=29.6mSv

つまり、100ベクレルの水道水からミルクを与え続けた場合は年間の許容量を1.8倍ほど超過してしまう(200日で年間摂取の許容量に達する)のに対し、今回の母乳の場合は年間を通じて与え続けた場合でも許容量の3分の2程度におさまります。

・放射性ヨウ素131の性質も考える

上の計算でミルクの場合は年間の摂取量許容量を超過していまいました。それではミルクは危ないのでしょうか? いいえ、そういうわけではありません。その理由を考えます。

実際にはありえない高濃度の水
今回の計算は基準ぎりぎりの100ベクレルの水を毎日使い続けるという極端な条件設定です。100ベクレルをこえるヨウ素131を水道水から検出したのはほんの一時期であり、現在ではより低い値に落ち着いています。

ヨウ素131の半減期は8日
加えて、ヨウ素131の半減期は8日と短いことが知られています。現在、少なくとも大気中への放射性物質の放出は落ち着いています。ヨウ素の放出は3月15日に集中していると見られており、徐々に減少しています。新たに放出されるヨウ素がない以上、一定レベルのヨウ素131を摂取し続けるということは不可能に近いことです。

以上のことから、今回報道された母乳であっても、また、基準ぎりぎりのヨウ素131を含む水道水から作ったミルクであっても乳児の健康には問題ないだろうということが予想されます。

今回参考にした資料はこちらです。
【日本産科婦人科学会】「大気や飲食物の軽度放射性物質汚染について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内 (続報)」 2011年04月18日『周産期医療の広場』
http://shusanki.org/clipping_page.html?id=229

国が出す資料は信用できないという声も耳にしますが*1、妊婦や胎児を守る立場である日本産科婦人科学会の資料であることを考慮していただけると幸いです。

・追記

共同通信からより詳しい報道がなされていました。

3月24日と30日に1人約120〜130ccずつ採取した母乳を民間の放射線測定会社で分析。
千葉県柏市の産後8カ月の女性から36.3ベクレル、茨城県守谷市の女性から31.8ベクレルを検出した。茨城県つくば市の女性2人からもそれぞれ8.7ベクレル、6.4ベクレルを検出。守谷市の女性は2回目の検査で8.5ベクレルに低下したという。

「母乳から微量の放射性物質 市民団体の独自検査」2011年04月20日『47NEWS』

記事にあるように採取したのは3月24日と30日です。これはちょうど水道水の規制が行われていたころに該当し、水道水などから一時的にヨウ素131を摂取していてもおかしくない時期に当たります。また、2回目(30日のことだろう)では数値は大幅に低下しています(31.8→8.5ベクレル)。

現在では検出されたとしてもさらに数値は下がっているものと推測されます。

この件についてはこちらのまとめも併せてお読みになることをお勧めします。
「“時事通信:母乳から微量の放射性物質=市民団体が検査”に関するつぶやき」『Togetter』
http://togetter.com/li/126101

執筆: この記事はohira-yさんのブログ『食の安全情報blog』からご寄稿いただきました。

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