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東京オペラシティ アートギャラリーで、ホンマタカシ「ニュー・ドキュメンタリー」展が始まった。今年1月、金沢21世紀美術館でこの展覧会が始まったときから、東京での展覧会を心待ちにしていた人たちは多いはず。美術館内での展示は、金沢のときと配置も、展示内容も少し異なる。

展示会場を訪れた。片面はガラス張りの廊下を歩き、その突き当たりから写真が展示されている(ホンマは今回、通常この美術館の出口にあてられる場所を入口に設定した)。くの字に折れ曲がるガラス張りの廊下の、反対側の壁面に展示された『Tokyo and My Daughter』の写真から見ていく。さまざまな成長過程にある、一人の女の子の写真と、東京風景の写真を編集して見せるこのシリーズは、展示会場や媒体(一番最初は写真集の形で世に出た)によって、毎回写真のセレクトが異なる。今回の展示が私にとって、より印象深く感じられたのは、<ホンマの撮った東京の写真を、東京で見る>ことにより生じる特別な感覚である。

ホンマタカシの撮った東京の写真はこれまでに数多く見てきた。雑誌を通して、写真集や印刷物を通して。それは私だけでなく多くの人にとっても同様だろう。それでも、あらためて美術館でホンマが撮った東京の写真を見ることが、古びない体験として自分の中に刻まれるのは何故だろうか? そこには常時追加されていく新作写真もあるだろうし、セレクトの妙もあるだろう。しかしこれだけ長期間東京を撮り続けているホンマに対しては、それらを凌ぐ力量とパワーを感じる。

ウィリアム・エグルストンの撮るアメリカ南部の写真が、やはり作家にとって最高に息の合った被写体と感じられる一方で、エグルストンの撮る京都やパリはどうも腑に落ちない、という感覚を昨年、原美術館で同作家の個展を見た時に、私はもった。写真家にとっては、運命的な被写体となる場、都市があるのだろう、ということを実感せざるをえない。ホンマタカシは、東京のホンマタカシなのだ。

ホンマの展示はこのシリーズを皮切りに、以下のように続く。イタリアの未亡人を、その居住環境やアルバムまで含めてポートレートとして撮ったシリーズ『Widows』。さまざまなマクドナルドの店舗写真をシルクスクリーンを通過させてより抽象化した『M』と、マイク・ミルズとのコラボレーションシリーズ『Together』。過去の雑誌媒体他への発表写真を白黒写真の一冊にまとめた『re-construction』。そして、雪原のなかの狩猟風景写真とそれに触発されたホンマの新作絵画を組み合わせた『Trails』がある。



《Short Hope》より©Takashi Homma
そして最後に、東京オペラシティ アートギャラリーで初の発表となる『Short Hope』がある。これはホンマが長年追い続けている写真家、中平卓馬の映像によるポートレートだ。そこに映っているのは「煙草をすっている男」だ。作品名が示唆していることでもあるが、「煙草の銘柄はショートホープ」であることは、ホンマの過去の写真集からはっきりと分かる。「タバコはもっぱらショートホープ。短い希望」という中平の発言を拾って、写真集『きわめてよいふうけい』(2004 リトルモア)を作ったホンマタカシ。マッチをすってから煙草に火をつけるまでの短い映像、そして暗転による暗闇が繰り返される映像を見ながら、それらのことが、頭の中を巡っている。長い映像作品はすぐ立ち去りたくなることも多いのだが、この短い希望に火がともされる瞬間の連続に、なぜか長く立ち会っていたい気がして、私はその映像を眺め続けた。そしてまた、この、中平が日常生活のなかで頻繁に行っているであろう喫煙行為の断片を拾い上げた映像作品の副題に(ポートレートとして)と添えられていることは、いかにも腑に落ちる、と考えたのだ。

text / nakako hayashi

■ホンマタカシ「ニュー・ドキュメンタリー」展
会期:2011年4月9日(土)〜6月26日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー 東京都新宿区西新宿 3-20-2  Tel:03-5353-0756
開館時間:11:00〜19:00(金・土は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし5月2日は開館)
入場料:一般1,000(800)円/大・高生800(600)円/中・小生600(400)円

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