レベル7の国にやってきた老ブルースマン ジョニー・ウィンター

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東京臨海新交通臨海線、通称ゆりかもめは、東京タワーやレインボーブリッジなど、東京のシンボルを車窓に映しながら、東京湾にそって進んでいきます。

ついこないだまで、このあたりは海が見える一等地だった。でも、今はたぶんそうじゃない。東日本大震災で東京湾岸に起こった液状化現象は、42平方キロ、世界最大のものだそうです。ふとみると、ところどころにカラーコーンでかこった場所がある。おそらくは液状化によって地面から砂と水が噴出した場所で、人の立ち入りを禁じられているのです。

テレビの報道によれば、お台場の高級マンションには新規入居者がほとんどいないという。反対に入居者が増えているのは災害の影響がすくなかった八王子だとか。震災は地価を変え、地図を変え、いずれは東京という都市そのもののデザインさえ変えていくのでしょう。

震災で大きな痛手をこうむったのは、土地ばかりではありません。街で外国人の姿を見ることがすくなくなりました。知人の話によれば、机を並べて仕事をしていた同僚の中国人女性が、帰国したまま戻ってこないという。なんでも、両親から日本に戻ることを禁じられているためだそうです。当然といえば当然のことでしょう。日本は“地震の国”“レベル7の国”なのだ。かわいい娘に旅をさせるには、あまりに危険すぎる。私が彼女の親だったとしても、娘に同じことを言ったと思います。

震災前にチケットを販売していた外タレ・アーティストの来日公演も、次々に延期・中止になりました。多くは「震災の影響」が理由になっていますが、要はアーティストやスタッフが、日本に来たくないのだと思います。すこし前まで、日本は彼らにとって“いい国”だった。ファンは暖かいしギャラもいい。でも、今はそんな“暖かさ”や“ギャラのよさ”も効力を発揮できない。日本は“安全な国”ではなくなってしまった。この事実は、たしかにわれわれの心に、暗い影を落としています。

お台場を訪れたのは、ライブハウスZepp Tokyoで、テキサス出身のブルース・ギタリスト、ジョニー・ウィンターの公演を観るためでした。彼とて、打診されてないはずはありません。「日本は地震とレベル7だぜ。それでも行くかい?」と。彼は「行く」と答えた。それが勇気ある返答であることはいうまでもありません。観客の全員が、それをわかっていた。だからこそ、当夜のコンサートは、ある種異様な雰囲気に包まれていたのだと思います。開演前、BGMのブルースが途切れるたび、歓声と拍手が起こる。観客が主役の登場を待つのは当然のことですが、少々度をこしていました。だって、まだ客電がついてるんだぜ! 客席の誰もが、ジョニーに胸いっぱいの感謝をしていたのだと思います。日本にきてくれてありがとう。ただそれだけで、僕らはずいぶん勇気づけられる。その感謝を表現するためには、通常以上に歓声をあげ、拍手するしかない。今思えば、震災後の日本だからこその高揚と集団心理が、あの場を形成していたのです。

ジョニー・ウィンターは67歳。あのウッドストック・フェスティバルにも出演していた古いアーティストです。見た目だってよぼよぼのおじいちゃんで、すでに腰も曲がっていたし、終始イスに座ったまま立つことはありませんでした。演奏時間はきっちり90分間。セットリストも通例どおり、特別なメニューは何もありません。日本や被災地にたいしてのメッセージもいっさい、ありませんでした。

でも、安っぽい言葉以上に、彼のたたずまいは意志を表現していたように思います。ブルースのスタンダード・ナンバー『ダスト・マイ・ブルーム』を演奏しながら、彼はこう歌いました。

「俺のいのちはもう長くない」

いのちはもう長くないからこそ、日本にやってきた。いのちは長くないからこそ、歌わなければならない。私はそんなふうに受け取りました。おそらく、観客席にいた多くの人が、そう考えたにちがいありません。

震災を経て、わたしたちの国は大きく様変わりしました。ひとつのコンサートを観るのさえ、以前とは異なる感覚を抱かざるを得ない。元に戻す……ことはできないとはいわないが、恐ろしく時間がかかることでしょう。俺のいのちはもう長くない――それは老ブルースマンだけの感慨じゃないのだ。そう思っています。それは案外、震災後の日本人に共通した感覚なのかもしれない。すくなくとも私は、それを自分のことばとして受け止めていこう、と思っています。私に残された時間は、決して長くはないんだ。

ジョニー・ウィンターはそんな重いことばを残し、地震の国・レベル7の国を去っていきました。本当にありがとう。あなたの姿を、私はたぶん死ぬまで忘れないだろう。

Zepp Tokyo


■ 参考サイト
毎日jp「東日本大震災:東京湾岸、液状化42平方キロ お台場−千葉市、世界最大に」
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110417ddm001040086000c.html

BARKS「ジョニー・ウィンター「ロックン・ロールをわかってるんだね。嬉しいよ!」」
http://www.barks.jp/news/?id=1000069058

(草野真一)


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