モノづくり復興へ5つの考え〜デザイナーズビレッジ村長 鈴木淳

写真拡大

 3月11日に発生し甚大な被害をもたらした東日本大震災から1ヶ月。東北地方の産業を支える「モノづくり」企業は4千社以上が被災したとも伝えられている。繊維ファッション産業もまた、多くの工場や倉庫などが甚大な被害を受けた。危機的状況が続く今、ファッションに携わる人々が何を考えて行動を起こし始めているか。そして今後の長期的な震災復興と新生に向けて出来ることとは何か。「復興とファッション」をテーマに、ファッションやモノづくりに深く関わる方々の考えや思いを届ける。

 vol.5は、モノづくり事業者のマーケティングアドバイスやクリエイター指導を行うソーシャルデザイン研究所代表で、「台東デザイナーズビレッジ」村長として7年間で54ブランドを育成してきた鈴木淳氏。

モノづくり復興へ5つの考えの画像を拡大


「復興とファッション」vol.5 ーモノづくり復興へ5つの考えー

 ファッション産業に関わるクリエイターやメーカー等の「モノづくり」を支援する立場から、今後の産業復興に向けての私見をお伝えします。

【その1】効率優先から高付加価値へ変革を
 厳しい状況になっている原発事故は、利益追求と行き過ぎたコスト削減により十分な安全が確保されていなかったことが原因ではないでしょうか。無理なコスト削減による利益追求は「生活の豊かさ」や「健康」を損ねてしまうことを再認識させました。モノづくりも単なる利益追求・効率優先から、豊かさや健康などの人間優先へと変革する時です。

 もともと労働工賃の高い日本の製造業は、アジアとコスト競争をしても敵わないので高付加価値化していくべきなのですが、消費者に商品価値を伝える努力を放棄してメーカーにコスト削減を求め、その結果として価値よりも価格が重視されるマーケットができてしまいました。これからは、「安くしないと買ってもらえない製品」を作るのではなく、日本のモノづくりの強みである「上質な素材」や「丁寧さ」「文化背景」を活かした「高付加価値」の喜んでもらえる商品を作ることが日本のファッション産業復興につながります。震災後で不安が多い今だからこそ、気持ちにゆとりを与えて、気持ちを明るくしてくれる美しいモノや優しいモノを身につけて欲しいと思います。

 マーケットが縮小するからと安物を作るのではなく、長く培われてきた知恵や経験を活かし、手間をかけて作り、こだわりを理解してくれる消費者に大きな満足を与えることを目指しましょう。

【その2】意志のある消費とメッセージ

 震災後には復興のために多くの義援金が寄せられました。しかし一回義援金を送れば終わりではなく、継続的な経済的支援が大事です。そのためには多くの人が「意志のある消費」をすべきです。復興のために役立てるために、普段より高くても社会貢献や人の生活を大事にする「志(こころざし)のある企業」の商品やサービスの購入を通じて、継続的に被災地を応援していくのです。被災地を支援する企業を応援することも立派な活動です。デザイナーや企業は、自らの「志」をメッセージとして伝え、行動で示し、共感を得ていくことを願っています。

【その3】ファッションで高齢者を元気に
 日本は世界一高齢化が進んでいる国なのですから、お金も仕事も無い若者ではなく、資産も時間も知恵もある高齢者が元気にならなくては復興できません。年齢とともにファッション消費も成熟する欧米に比べると、日本の大部分の資産を持つ高齢者は、十分な金銭的余裕があっても、あまりファッションにお金を使わないようです。むしろ介護や医療などの心配から買い控えをすることもあります。世界で最も高齢化が進む日本だからこそ、高齢者がファッションを楽しめる提案をしましょう。

 気持ちを明るくするような素敵なファッション性、着脱や動作を楽にして自立を促す機能性、暑い夏や寒い冬を過ごすための快適性など。若者ファッションではトレンドと価格だけで勝負してきたアパレルは、高齢者対応のために消費者の声を真摯に集め、知恵を絞ってください。

【その4】消費者を巻き込んでいく
 小売の現場では、コストを削減するために人を減らし、売りやすい商品を並べるようになってきました。価値を伝えられないから安いものしか売れないのかもしれません。日本のモノづくりの価値を十分に伝えて高くても満足してもらうために、作り手自らが積極的にお客様と交流を図らなければなりません。モノを買ってもらうだけではなく、モノの背景にある作り手の想いやこだわり、開発ストーリー等を含めて理解してもらいましょう。

 店頭の実演販売、ネットでの情報発信、見学会、ファンを集めたサークル活動等、できるだけ接点を増やす活動をする時期です。商品を買ってもらうだけではなく、一緒にモノづくりや販売に参加してもらうように巻き込む仕掛けがあるとよいでしょう。

【その5】マーケットが求めるものは心の安定と社会創造
 マーケット傾向としては行き過ぎた効率化への反省と、社会や環境の将来に対する不安から、「心の安定」と「社会創造」に関心が集まると予想します。心の安定を与えるのは、五感から心地良く癒しを与える商品、アート、自然モチーフのデザイン、心地良い肌触り、やさしい香り、手作りの温もり等。そして自分の安らげる居場所を確認するために家族や友人、職場、コミュニティーとの関係を強化するメッセージ商品。

 社会創造では、人の役に立つことで充足感を得るソーシャルビジネスやコミュニティ活動等の社会貢献活動への関心の高まります。また、日本人としての自分の根っこを再認識するために、日本の伝統や文化が改めて注目されます。これらのテーマに取り組むことで、人々を癒し、元気を与えていくことも、モノづくりに関わるものの役割かもしれません。


 最後に、消費者である皆さんにお願いしたいこと。東北地方は「モノづくり」が盛んで高級な服を作るメーカーもたくさんありました。復興のために消費しても、それが海外で早く安く作られたものばかりでは、余計に国内マーケットが縮小してしまいます。また国産製品でも安い商品ばかりを購入することは、製造業者にさらにコスト削減圧力がかかります。

 消費者である皆さんが、日本製品の作り手に関心を持ってもらい、モノづくりのこだわりを理解し、多少価格が高くても支援として購入してもらうことが、長期的な復興につながると考えます。さらに、若いクリエイターや創業メーカーが作る新しいモノに投資してくれることで、彼らの活躍の場と将来の産業の芽が守られます。ぜひお願いします。

■鈴木淳(すずき・じゅん)
 中小企業のマーケティングアドバイス、クリエイター指導、ファッションと売場のユニバーサルデザインを専門とし、ファッション関連創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」村長として人気若手デザイナーを多数輩出。現在、株式会社ソーシャルデザイン研究所 代表取締役 マーケティング・アドバイザー、一般社団法人日本ファッションプロダクト協会理事、NPO法人ユニバーサルファッション協会(UNIFA)副理事長。

・株式会社ソーシャルデザイン研究所 http://www.social-design.co.jp
・ファッション関連創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」
 http://www.designers-village.com/ ※5月20日〜21日 年に一度の施設公開

・著書「好き」を仕事にする自分ブランドのつくりかた
 ―準備から立ち上げ、軌道にのせるまでの「クリエイターの教科書」 [単行本]
 アスペクト刊  ¥ 1,575

■特集「復興とファッション」
 vol.1 -ファッションがもたらす7つのこと- ファッションジャーナリスト宮田理江
 vol.2 復興支援とファッションにできること
-ファッション・エイドの提案- シナジープランニング代表 坂口昌章
 vol.3 - エイズ、阪神大震災、そして今ファッションにできる事 - JFW理事 太田伸之
 vol.4-「自粛ムード」を吹き飛ばすきっかけを - ブログ「Elastic」主宰dale