放射線をめぐる誤解

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今回は山本弘さんのブログ『山本弘のSF秘密基地BLOG』からご寄稿いただきました。

放射線をめぐる誤解
ネットで調べていると、ちょくちょく放射線についてひどい間違いを言っている人がいます。時にはニュース番組でも間違った解説が流れます。
放射線や放射性物質についての誤解を解くために、こんな解説を書いてみました。

【誤解】
放射線は距離の2乗に反比例して減少する。
つまり原発から20km地点の放射線は、10km地点の量の1/4になる。

【事実】
放射線が“距離の2乗に反比例して減少する”というのは真空中の場合です。大気中では、放射線は空気に吸収されるので、もっと減少率は大きくなります。ベータ線の場合、空気中をせいぜい10mぐらいしか飛びません。ガンマ線も10kmの厚さの空気の壁があれば、ほとんどさえぎられます(実際、宇宙から降り注ぐガンマ線は、ほとんど地表には届きません)。
現在、福島第一原発から何十kmも離れた場所で検出されている放射線は、空気に乗って漂ってきたヨウ素やセシウムの微粒子から放たれているものです。当然、その量は風や雨に左右されます。原発から離れるほど少なくなることは確かですが、決して距離の2乗には反比例しません。

【誤解】
ヨウ素131の半減期は8日である。だから8日経てば安全である。

【事実】
放射性元素は自然に崩壊して別の元素に変わっていきます。半減期というのは、放射性元素の半分が崩壊するのにかかる時間を意味します。
半減期が8.02日のヨウ素131の場合、ベータ線を放出して崩壊し、このように減少していきます。

0日目  100%
1日目  92%
2日目  84%
3日目  77%
4日目  71%
5日目  65%
6日目  59%
7日目  55%
8日目  50% ←ここが半減期
9日目  46%
10日目 42%

以下、

16日目 25% ←2回目の半減期
20日目 18%
30日目 7.4%
40日目 3.1%
50日目 1.3%
60日目 0.55%
70日目 0.23%
80日目 0.098% ←10回目の半減期

仮に、収穫されたある野菜から、規制値の4倍のヨウ素が検出されたとします。8日経っても、それは規制値の2倍にまでしか下がりません。規制値以下に下がるまで、さらに8日、つまり計16日かかるのです。
また、ヨウ素131はベータ線を出してキセノン131mに変わりますが、これはエネルギーが高くて不安定な状態なので、ガンマ線を出して安定で無害なキセノン131に変わっていきます。その半減期は11.84日です。
「8日経てば安全」などと言うのは、半減期という概念を根本的に理解していない人です。

【誤解】
X線撮影やCTスキャンによる被ばくの影響を、食物や水に含まれる放射性物質による被ばくと単純に比較するのは間違っている。
同じ被ばく量でも、一度に被ばくするより、体内に入った放射性物質により毎日少しずつ被ばくする方が影響が大きい。

【事実】
前半は正しいのですが、後半は間違っています。
線量率効果* というものがあります。「同じ線量の放射線を受けても、線量率が低い場合(すなわち、長い時間をかけて放射線を受けた場合)ほど、生物効果が小さくなる」というものです。
放射線は人間のDNAを傷つけますが、この傷は治らないものではなく、少しぐらいの傷なら回復します。ですから、弱い放射線を長期間にわたって浴び続けた場合の害は、一度に浴びた場合の害より少ないのです。
分かりやすく食塩でたとえてみましょう。
食塩(塩化ナトリウム)というのは、実は危険な物質です。そのLD50(半数致死量)は、体重60kgの人だと180〜210gです。もし200gの食塩をいっぺんに摂取したら、50%ぐらいの確率で死に至るでしょう。
厚生労働省は、日本人の食塩摂取量の目安を、成人で1日10g未満と定めています。1日に10gぐらいまでなら、食塩を摂取しても害はないというわけです。
すなわち、同じ200gの食塩でも、いっぺんに摂取するのと、1日に10gずつ20日間にわたって摂取するのでは、影響がまったく違うのです。
放射線もそれと同じです。1回のCTスキャンで6000マイクロシーベルト被ばくするのと、1時間に6マイクロシーベルトずつ42日間(1000時間)にわたって被ばくするのでは、後者の方が影響は小さいのです。

*:「線量率と生物学的効果」『原子力百科事典 ATOMICA』
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-02-14

【誤解】
「ただちに健康に影響が出るものではない」というのは、いずれ影響が出ることを意味している。

【事実】
さきほどの食塩の比喩で考えてみましょう。
1日に10gまでの食塩なら無害です。しかし、ある日たまたま塩辛いものを食べすぎて、20gの食塩を摂取してしまったらどうでしょう?
その日だけのことなら、べつに影響は出ないでしょう。そう、「ただちに健康に影響が出るものではない」のです。
しかし、1日に20gずつ、毎日摂取し続けたら? これは塩分の摂りすぎです。いずれ身体に悪影響が出てくるでしょう。
これはアルコールや砂糖やタバコでも同じことです。たまたまお酒をいつもより少し飲みすぎた日や、甘いケーキを食べすぎた日があっても、ただちに健康に影響が出るものではありません。しかし、そんな生活を毎日続けていたら、いずれ健康を害します。
規制値を超えた放射線が検出された野菜や水の場合も同じです。規制値の数倍程度の量なら、一度や二度、口に入ったぐらいで、何の影響もありません。しかし、何年にもわたって同じ量を毎日摂取し続けたら、その影響が蓄積して、いずれ害が出るかもしれない。だから念のため、規制値を超える放射線が検出されたら、口に入れないようにしましょう……ということなのです。
ましてや、放射線量が規制値以下なら、何の問題もありません。

「食塩と放射線をごっちゃにするな!」と怒る人もいるかもしれませんが、そういう人は16世紀の医師パラケルススの言葉を思い出してください。

「すべての物質は毒であり、毒でないものは存在しない。毒と薬の違いはその用量による」

塩だろうと砂糖だろうと水だろうと酸素だろうと光だろうと、多すぎれば人間に害を及ぼします。
その点では放射線も同じです。放射線が有害かどうかは、その量によるのです。害があるはずのない微量の放射線まで恐れるのは、非合理な考え方です。

執筆: この記事は山本弘さんのブログ『山本弘のSF秘密基地BLOG』からご寄稿いただきました。

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