『地球の歩き方』の作り方(2)

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 今月末からはゴールデンウィーク。ゴールデンウィークといったら旅行シーズン、ということで、前回は旅行ガイドブックとして有名な『地球の歩き方』シリーズ編集本部本部長の石谷さんに『地球の歩き方』創刊のいきさつをお聞きしました。
 『地球の歩き方』は1979年の創刊以来、日本人の旅に寄り添い続けていますが、この30数年で日本人の旅行や旅行業界はどのように変わったのでしょうか。(以下、敬称略)

■「『地球に歩き方』から一本外れた旅をしてみてほしい」

―今特に売れている巻はどの地域を扱ったものですか?

石谷「ここ1,2年だとフランスやパリが一番売れていると思います。以前に比べ燃油サーチャージが下がって比較的安く行けるようになっているので、今フランスは人気ですね」

―『地球の歩き方』制作時の失敗談やエピソードがありましたら教えてください。

石谷「取材に行ってから本ができるまで3〜4か月かかるのですが、取材の時はあった店が、本が出る時にはなくなっているということはよくあります。
たとえばニューヨークや香港は最新の情報を載せてもどんどん店が入れ替わってしまいます。潰れない店だけ載せればいいんじゃないかという話もあるのですが、それだと旅の醍醐味が半減してしまう。
だから“最新刊を買ったのに何軒も潰れているじゃないか”というクレームが来たりもしますね。仕方がないことなのですが、買った方からするとギリギリまで待って買ったのに…ということですね」

―旅行ガイドブックとして有名なもののひとつに『ロンリープラネット』がありますが、『地球の歩き方』と競合したりするのでしょうか。

石谷「『ロンリープラネット』は欧米的な発想で作られているのでライバルとは考えていません。使い方も書いてあることも違いますから。海外の方は、地図は現地で買うものだという発想があるので『ロンリープラネット』の地図は簡素なものです。
地図の性質も違います。海外の地図は、通りにストリート名が入っている代わりにランドマーク(地図上の特徴物)がほとんど入っていません。対照的に我々が作っている地図にはストリート名も入っていますが、ランドマークがすごくたくさん入っています。
これは日本人と欧米人の地図の見方の違いによるものです。たとえば欧米に行って道を尋ねると“この通りをまっすぐ行くと○○ストリートに突き当たるから、そこを左にしばらく行くと○○ストリートに出て、そこを左に50m”という教え方をされます。しかし、赤坂で道を尋ねると、“ここをまっすぐ行くと郵便局があるから、そこを左に曲がってまっすぐ行くとスタバがあってそこを右です”という教え方をされます。
『ロンリープラネット』の方が使いやすいという人は欧米の地図の見方に慣れていたり、内容をじっくり読むのが好きな人だと思います。日本人は視覚情報を重視する人が多いのでビジュアル情報を多く入れて小見出しもたくさん入れます。『ロンリープラネット』はどちらかというとテキストが中心ですね」

―制作するにあたって苦労するのはどんなところですか。

石谷「最新情報を載せるので、本当に最後の最後までチェックをしないといけないことですね。たとえばハワイとかニューヨークは本当にコロコロ変わるので、本ができあがる直前に再度一からチェックし直すんです。交通機関の運賃が予告なしに変わって、現地の人も気づかないというのは海外ではよくあることなので気をつけなければいけません」

―地球の歩き方が扱っていない国はどのような国ですか?

石谷「今扱っているのが150カ国くらいですが、大きな国で扱っていないとなると紛争があったり、治安の問題で取材に行けない国ですね。ソマリアやイラク、北朝鮮、あとはアフリカの中央部は扱っていません。そういった地域も平和になったら扱いたいです。『地球の歩き方』で世界地図を埋めるのが理想なので」

―先日革命が起きたチュニジアは扱っていますね。

石谷「チュニジアやリビアは、以前は平和で旅行しやすい環境だったので扱っています。ただ、リビアは観光に力を入れてビザも取りやすくなるというので2008年にリビア編を出したんです。でも本が出た瞬間に、アラビア語が併記されていないとビザを申請できなくなるなど、ビザがものすごく取りづらくなって、観光をしにくい国になってしまいました。話と違うじゃないかと思いましたね(笑)」

―この30年で、旅行業全体の変化は感じたりしますか?

石谷「ネットが発達したことで、みんな航空券やホテルの予約をネットでするようになりました。特に航空券は、航空会社が旅行会社を通さないで売るというのが前提になってきています。だから、そこでしか買えないプランがあったりするなど、専門的なことをやっている会社以外、旅行会社の存在価値がこのままではなくなってしまう。
航空券は航空会社から直接買った方が安かったり、旅行会社で買おうとすると満席の便でも、航空会社のホームページを調べたら空席があった、ということも出てきます。ホテルもその方法で安く取れますしね。
自由旅行がしやすい環境になっているので、航空会社の施策も自由旅行に合わせたものになってきています。そこが大きく変わった点だと思います」

―インターネットの普及によって、『地球の歩き方』は影響を受けましたか?

石谷「今のところ影響はあまりないですね。
出版業界では電子書籍が話題になっていますが、電子書籍はどちらかというと読み物で、ガイドブックのような実用書の場合は、よほど検索性がいいものが作れれば話は別ですが、まだ紙の方が圧倒的に使いやすいです。
たとえば旅先で目的地を探す時、地図と本文を突き合わせて、あっちを見てこっちを見て、と地図を回転させたりする場面が出てきます。そういった場面にはまだ通常のPDFでは対応できないんです。
もしガイドブックを電子書籍化するなら、検索性が良く地図とテキストが連動してというものを作り上げないといけません。ガイドブックをそのまま電子にするだけではユーザーにとっては全く意味がないんです」

―3月は旅行シーズンですが、海外旅行に行かれる方々にメッセージがありましたらお願いします。

石谷「『地球の歩き方』を旅行に持って行ってくれるのはありがたいことなのですが、あくまでも目安に留めて、『地球の歩き方』から一本外れた旅をするとすごく楽しい旅になるのではないかと思います。危険な場所は別ですが、たとえばシャンゼリゼの一本裏の道を歩いてみるとか。
そうすると旅先の街を違った目線で見れるのではないかと思います」
(取材・記事/山田洋介)

(前編「『地球の歩き方』は、本々は本にするつもりで作っていたわけではないんです」 に戻る)


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