東北の酒を飲むことが被災地支援につながる

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   東日本大震災で甚大な被害を受けた被災者の心情に配慮して、花見やイベントの自粛が広がるなか、岩手県の日本酒の蔵元が「ぜひ花見を開いて」と訴える動画がインターネット上に公開され、話題を集めている。

   自粛ムードで消費が冷え込むと、かえって被災地の経済に打撃を与えるというのだ。宮城県や福島県の蔵元も、「日本酒を飲んで被災者を応援してほしい」と願っている。

自粛による「経済的二次災害」恐れる

   桜のシーズン到来だが、各地で花見のイベントの中止が相次いでいる。関東地方などでは電力不足から「夜桜見物」を控えるためという理由もあるようだが、計画停電の影響を受けない西日本でも自粛するところは多い。

   ところが、被災地のひとつ岩手県から花見の自粛に「待った」がかかった。同県二戸市の地酒「南部美人」の蔵元、久慈浩介さんが動画投稿サイト「ユーチューブ」に、「被災地岩手から全国のみなさんへ」と題した動画を投稿。そこで自ら「花見をしてもらった方が、自粛してもらうよりありがたい」と訴えていたのだ。

   「南部美人」がある二戸市は内陸部のため、酒蔵が一部損壊したものの津波に襲われた沿岸部に比べると被害は小さかったという。久慈さんが恐れているのは、自粛ムードにより日本酒を飲む人が減ってしまい、「経済的な二次被害」が発生することだ。「酒を飲んでいる場合じゃない」と思う人もいるだろうが、酒を明日への活力として、その「元気」の一部を被災地にわけてほしい――。久慈さんはこう呼び掛ける。

   動画は大きな反響を呼んだ。投稿から4日目で再生回数は13万回を超え、「消費することも人助けだ」「酒屋で東北の酒を見かけたら、積極的に買いますよ」と共感を示すコメントが並ぶ。テレビのニュース番組に登場した久慈さんは、「東北のものを食べたり飲んだりしてもらうことが、長い期間の支援につながるんです」と話した。津波で蔵ごと流されてしまった岩手県沿岸部の酒造会社の社員を、一時的に雇用して再建を支援する考えもあるという。

酒を傾けながら被災地について語ってほしい

   東北の他県にある日本酒の蔵元も、久慈さんに同調する。宮城県大崎市の「一ノ蔵」常務の鈴木整さんは、ツイッターで久慈さんが「東北の酒を飲んでください」とアピールする内容をリツイート(再投稿)し、広めてきた。

   「一ノ蔵」は、震災で仕込み蔵が被害を受け、製品も数万本が破損、一時倉庫の前は割れたビンの破片などがうずたかく積み上がった。2011年3月22日から出荷を再開したが、「3月の出荷は例年の半分です」と鈴木さんは打ち明ける。宮城県沿岸部の得意先が被災し、首都圏からの注文も、計画停電の影響で飲食店が不振だったため激減したという。被災地の本格的な復興がいつになるのか読めないなか、「これからどうなるんだろうと不安でいっぱいです」という。

   現状では「関東が頼みの綱」と鈴木さん。「一ノ蔵」の社員の中には、地震や津波で家が壊れた人もおり、鈴木さんも車を流されたという。「酒を傾けながら『三陸はどうなっているだろう』などと被災地を思ったり、語り合ったりしていただければありがたいですね」。

   福島県郡山市にある「仁井田本家」専務の高橋豊美さんも、過度の自粛ムードに懸念を示す。「花見気分になれないかもしれないが、少しでも東北を応援していただけるのであればお酒を控えないでほしいのです」と高橋さんは願う。

   地震の被害はそれほど大きくはなく、今季の酒造りにも支障が出なかったが、今は「とにかく原発問題が心配です」と語る。福島第1原子力発電所の事故で、風評被害は出ないだろうか、来シーズン用に仕込む酒につかうコメは地元でとれるのか、など悩みは尽きない。「先が見える支援」として、何より自分たちがつくった酒を飲んでもらうことが一番ですと高橋さんは語った。

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