「本は紙である」という環境で育ってきた僕らに、電子書籍はどんな未来を見せてくれるのでしょう。『Web本の雑誌』はブック・コーディネイターの内沼晋太郎さんとともに、端末を持って関わりのありそうな方にお話を聞いてきました。第6回目のゲストは、作家の中島京子さん。著作の『FUTON』も電子書籍化されている、直木賞受賞作家の目に電子書籍という新しい波はどう映っているのでしょうか。


【「電子書籍を書く」。そのとき、作家の意識は変わる?】

内沼 今日は電子書籍について中島さんのお話を伺いに参りました。

中島 私でお話しできることがあるかしら(笑)。

内沼 いえいえ。僕も含めて、電子書籍がこの先どうなっていくのか、正確なことはまだ誰にもわかりません。でも関わる人によって、いまも微妙に見え方が違うかもしれない。そこで今日は書き手としての中島さんに、電子書籍がどういうものに見えているか伺いにやってきました。ここにいくつか電子書籍端末を用意しましたが......。

中島 なんかいっぱい出てきましたね。すごいすごい(笑)。これはいま市販されている端末が全部そろっているんですか?

内沼 全部ではありませんが、現時点(※取材が行われたのは2011年2月)での主要な端末はだいたいそろっています。最近、こうした端末やその周辺が話題になっていますし、中島さんのデビュー作『FUTON』も電子書籍化されていますよね。

中島 そう。結構前から電子書籍になっていて、たまに銀行に63円とか振り込まれていますよ(笑)。でも正直なところ、まだよくわかってないんです。ただ各出版社からこうした端末に配信する雑誌が立ち上がっていて、私も連載をさせていただいているようなんです。

内沼 「ようなんです」と仰いますと......。

中島 角川書店の『デジタル野性時代』で「空の木通信」という短編小説の連載を始めたんですが、端末を持っていないから自分で仕上がりが読めなくて。周囲からは「それ、エア連載じゃないの?」ってからかわれています(笑)。

内沼 どんな内容の小説なんでしょうか。

中島 私のイメージする東京の情景を描いた作品です。毎回違う人物が登場するんですが、東京に暮らすいろんな人に焦点を当てています。テーマとしては「スカイツリーの見える東京のどこかで起きる話」。そんな短編小説の連作です。

内沼 電子書籍端末に掲載される連載ということで、何か意識されたことはありますか?

中島 最初にちょっとだけ頭をかすめましたね。そうした新しい媒体で読まれるということは、テーマなり、書き方なり、文体なり、何か考えるべきなんじゃないかって。でも最終的にはそこまで考える必要はないかと「ま、いっか」って(笑)。

内沼 考え出したらキリがありませんよね。現在の電子書籍端末は、あくまで「読む」ことに主眼が置かれた作りになっていますが、将来は、スマートフォンのようにいつもネットにつながっていたり、アプリの進化やGPSなどさまざまな機能との連携も考えられます。

中島 そうした未来の小説像の姿が、具体的に思い浮かぶわけではありませんが、一昨年、作家仲間と一緒にアメリカで開催された作家の会議に出席したときのことを思い出します。会場のあるニューオリンズには「ゴーストツアー」というガイドが観光客を連れて歩くナイトツアーがあるんです。夜の街に何組もいるツアーの様子を見ていて、作家仲間で「自分の街のゴーストストーリーをそれぞれ書いてみない?」という話で盛り上がりました。私は東京、フランスの作家はパリ、エジプトの作家ならカイロをテーマに街の情報を盛り込みながら、小説を書いていこうって。電子書籍化したら面白いんじゃないかな。小説と、パリやカイロのバーチャル・ゴーストツアーを同時に体験できるでしょ。

内沼 中島さんは田山花袋の『蒲団』を下敷きに、現代風に再解釈して『FUTON』を書かれたり、緻密な仕掛けをされる方という印象があったので、こうした電子書籍端末でも電子書籍ならではの新しい試みをして頂けないかと、勝手に(笑)楽しみにしているんです。

中島 小説を書くのとは違う能力が必要なのかもしれませんが、そういう新しい形のエンターテインメントが生まれてくるかもしれませんね。どちらかというと、小説よりも雑誌の方がすぐ電子書籍の企画に結びつきそうな印象があります。検索機能やGPSと地図の連動のようなことはすぐにでもできそうですものね。


【「プレゼントしてくださるなら喜んで頂きます(笑)」】

内沼 ところで先ほど「端末を持っていない」と仰っていましたが、電子書籍端末に触れられたことはありますか?

中島 友だちの持っているiPadを触らせてもらったことがあるくらいですね。ここに並んでいる端末はそれぞれ機能は違うんですか?

内沼 少しずつ違います。いろいろなわけ方があるんですが、一番わかりやすいのはiPadに代表されるバックライトつきのカラー液晶端末と、Kindleのような電子ペーパーと言われる、画面自体は光らないモノクロの反射光端末というわけ方ですね。

中島 それにしてもいっぱい出てるんですね。おすすめはあります?

内沼 それぞれ特徴も違うので、使い方にもよりますね。それぞれ特徴を挙げると、液晶端末のiPadはご存じの通り電子書籍端末というよりも、もっとPCに近い機能を持った汎用タブレット端末ですよね。同じく液晶端末のGALAPAGOSは購読契約をすると、電子雑誌が定期的に送られてくる仕組みです。いっぽう電子ペーパーの反射光端末は、電池の保ちがいいことと明るい場所で圧倒的に見やすいのが特徴ですね。

中島 電子ペーパーの方はみんな同じような機能なんですか?

内沼 細かく言うと少しずつ違います。Kindleは通信機能がついていますが、まだ完全には日本語に対応していないし、日本語の電子書籍を扱った公式ストアもありません。ソニーReaderは日本語に対応していますが、通信機能がないので電子書籍を買うときにケーブル経由でパソコンと接続する必要がある。KDDIのbiblio Leafは日本語対応で通信機能もついていて、好きなときにストアで電子書籍を買うことができます。試しにいくつか操作してみませんか。

中島 ぜひぜひ。これは......GALAPAGOSですか。これで読むにはちょっと重いかなぁ。でも文字の大きさが変えられるのはいいですね。ページをめくるのは......。へえ、こうなるんだ......。

内沼 ページめくりは液晶端末の方が紙をめくる感覚に近い演出をしていますよね。反射光端末は、一瞬消えて次のページがサッと浮かび上がる感じ。細かい違いはあっても、この挙動自体はどのメーカーでも同じですね。文字の大きさは、液晶/反射光端末含め、どれも変えられます。

中島 なじんでいるのもあるんでしょうが、もともと私は紙の本のページをめくる感覚や装幀が好きなんでしょうね。いまさわっただけだと、まだ慣れないかな。でも、意外と言っては語弊がありますけど、読みづらい感じはないですね。想像していたよりも、遥かに読みやすいですね。

内沼 中島さんのご実家はご両親とも文学者ですから、中島さんご自身も小さい頃から長く本に触れていらっしゃいますよね。ご実家にはさぞかし大変な量の蔵書がおありでしょう?

中島 もう本のゴミ屋敷みたいです(笑)。うちの親は古い人なので、ただでさえモノを取っておくし、とりわけ本なんて絶対に捨てません。だから書店にない本でも、実家に行けば見つかったりもします。ただ整理が悪いので、どこにあるか探すのが一苦労なんですけど(笑)。

内沼 ご実家の蔵書の全文が入った電子書籍端末があったら、素晴らしい資料になりますね。

中島 検索もできるんですよね? となると資料としてひとつ手元にあったら便利そう。絶版本や希少本だって、電子書籍化されていれば少なくとも内容に触れることはできる。あと、家に置いておくとかさばりそうな大型本も整理できるかな。ほかにも旅行や出張に行くときに、長編を入れておくのも良さそうだし......。どなたかがプレゼントしてくださるというなら、喜んで頂きます(笑)。

内沼 まだご自分で買おうというほどの欲求は湧いてきませんか(笑)。

中島 すごくいい端末が出るかもしれないから、もう少し待とうと自制できるくらいの欲求ですね。あとは新しいもの好きの友人が使い始めたとき、あれがいい、これがいいってお節介を焼いてくれるんじゃないかということにも、秘かに期待しています(笑)。

(構成:松浦達也)


<プロフィール>
中島京子
なかじま・きょうこ●1964年東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務を経てフリーライターになる。2003年小説『FUTON』を上梓。著書に『均ちゃんの失踪』(講談社)、『桐畑家の縁談』(マガジンハウス)、『ココ・マッカリーナの机』『さよなら、コタツ』(ともに集英社文庫)、『ツアー1989』(集英社)、『冠・婚・葬・祭』(筑摩書房)などがある。最新刊は『花桃実桃』(中央公論新社)。

『エルニーニョ』(講談社)
「もしおれがいなくなっても探さなくていい。おれが見つけるから」 21歳の女子大生・瑛(てる)と7歳の少年・ニノ 逃げたくて、会いたい2人の約束の物語
中島京子待望の直木賞受賞第一作。講談社創業100周年記念出版「書き下ろし100冊」

内沼晋太郎
うちぬま・しんたろう●1980年生まれ。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。「本とアイデア」のレーベル「numabooks」主宰。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)。LISMO Book Store Magazine編集長。http://numabooks.com







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