「復興とファッション」ファッションジャーナリスト宮田理江

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 3月11日に発生し甚大な被害をもたらした東北太平洋沖地震は、日本や世界中を悲しみと不安に包み込んだ。危機的状況の今、ファッションに携わる人々が何を考え、行動を起こしているか。そして今後の長期的な震災復興に向けて、ファッションが出来ることとは何か。「復興とファッション」をテーマに、ファッションに深く関わる方々の考えや思いを届ける。
 vol.1は、ファッションジャーナリスト宮田理江氏。

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ファッションがもたらす7つのこと

ーファッションはつなぐー
 9.11米同時多発テロの翌シーズン、世界4大コレクションの参加デザイナーたちは示し合わせたわけでもないのに、思い思いに花柄や平和モチーフをあしらい、まとうメッセージをランウェイから語りかけた。悲劇に襲われたのは主にニューヨークだったが、クリエイターたちは国境を越えて共鳴した。

 平時にこそ楽しめるという意味で、ファッションは平和が大前提になっている。だからこそ、デザイナーたちはあらためてフラワーチルドレン的な装いを打ち出し、その力を信じた。初日を襲われ、休止に追い込まれたニューヨークコレクションも次シーズンから再開され、心なしか参加ブランド同士の連帯は強まったように見えた。東日本大震災で休止した今回の東京コレクションも次回からたくましくリスタートすると信じたい。


ーファッションは励ますー
 2010年にハイチを大地震が襲った際、地震の被災者を支援する「Fashion for Relief Haiti (ハイチ支援コレクション)」と題されたチャリティー・ファションショーがニューヨークとロンドンで開催された。提案者となったスーパーモデルのナオミ・キャンベルをはじめ、人気トップモデルが無料で出演。Tシャツの売り上げはハイチへ送られた。東日本大震災でも同様の取り組みが相次いだ。


 「たかがTシャツ」と軽んじるのは浅はかな見方だ。Tシャツを着ることは、本人はもちろん、それを目にする人にも復興を呼び掛ける効果を持つ。忘れてしまわないこと自体が大事な復興支援なのだ。ニューヨーク発のブランド「Tory Burch(トリー バーチ)」が東日本大震災のチャリティーTシャツの販売期間を約6カ月先の9月15日までと設定しているのは、長期的に支援するという効果に加えて、記憶をつなぐという意味でも意義深いことと言える。


ーファッションはあたためるー
 東日本大震災の被災地へ、アパレル業界はそれぞれの商品を支援物資として届けた。例えば、アンダーウェアメーカーは肌着やソックスを、スポーツ用品ブランドは靴やジャージを送った。ラグジュアリーブランドも古着ショップも、それぞれができる貢献を試みた。被災直後から雪と寒気に襲われた人たちを少しでもあたためてあげたいという思いが世界中から寄せられた。それは服本来の機能である「防寒」を超えて、被災者を内からもぬくもらせたはずだ。


 売上金を寄付するキャンペーンやチャリティーアイテムは数え切れない。ファッションアイコンのLADY GAGA(レディー・ガガ)はチャリティーブレスレットで支援を募った。無数のブランド、メーカー、ショップが寄付・義援金を寄せた。集められた資金が貴重なのは言うまでもないが、大勢が寄付・義援金に思いを託し、被災地へ心のぬくもりを届けようとした勇気づけ効果も大きい。

ーファッションは語るー
 東日本大震災の後、私の暮らす首都圏の街ではダークトーンの服に身を包んだ人が増えた。被災地の難渋を思うと、誰しも日々の装いに意味を求める。真っ黒ではないにしても、華美を避け、つつましやかに整えた首都圏の装いには、無言の哀悼が込められている。

 節電や買い控えなどとともに、被災地の苦しみを少しでも分かち合う気持ちが無意識のうちに日々の装いにも表れているのだろう。直接、波にのまれていなくても、首都圏には運命共同体の意識が着実に芽生えつつある。人々の装いはその気持ちを物語っている。


ーファッションは呼び覚ますー
 誰しも制服をまとうと、そのユニフォームが象徴する役割に身の引き締まる思いがする。責任感や任務意識が勇気ある行動の背中を押す。効果が十分ではないかも知れない防護服で原子力発電所の復旧に挑む消防官や自衛官、東京電力職員の見せた使命感には、世界のメディアが惜しみない賛辞を捧げた。津波の押し寄せる町で最後まで避難を呼び掛けた警察官も大勢いた。

 9.11テロの現場でも数多くの消防士、警察官が職務中に帰らぬ人となった。制服は時として制度のシンボルと見なされるが、服が仕事や立場の象徴であり、しかるべき職務を忠実に果たす人たちによって私たちの社会が支えられているのだということを、被災地での出来事は思い出させてもくれた。そして、命がけの仕事を、制服に身を包んだ人たちだけに任せっきりにしてはいけないのだという事も。


ーファッションは変えるー

 気が晴れない時でも、お気に入りの服に袖を通せば、気分が上向くことは珍しくない。背筋がピンと伸びる服に身を包むと、自然に凜とした心持ちになるものだ。装いにはそれにふさわしいマインドを呼び込む働きがある。俗に「勝負服」「晴れ着」と呼ばれるものはそういったモチベーションアップ効果を持つ出で立ちだ。

 被災地ではまだ着替えにも事欠く日々が続いているが、徐々に平静を取り戻していく過程では、仕事着、カジュアルウェア、部屋着などのバリエーションが増えて、それぞれの装いごとに自分の意識を切り換えていけるようになっていくはずだ。服を着替えて忘れられることばかりではないに違いないが、装いを新たにすることによって、気分を弾ませたり、目的に集中したり、心をほどいたりできるのも確かなことだ。気持ちを切り換えて、新しい生活に身を投じていく上で、このファッションの力は決して小さくない。


ーそして、ファッションはよみがえるー
 支え合う人たちの身を、ぬくもりやプライド、美意識で包んで。1995年に起こった阪神・淡路大震災は関西きってのおしゃれな街として知られていた神戸市を壊した。数多くのファッションショップも被害を受けたが、神戸のおしゃれ心はへこたれず、今では震災前をしのぐほどの復興を果たした。


 神戸がよみがえった原動力の1つに、おしゃれを愛する神戸っ子特有の美学があったと見るのは、あながち外れていないのではなかろうか。エキゾチックでにぎわう街のたたずまいと、道行く人たちのスタイリッシュな着こなしは互いに響き合って「神戸らしさ」を形作ってきた。「神戸エレガンス」と呼ばれる独特のファッション美学は復興後、さらに神戸で成熟を遂げた感さえある。2010年には大阪を飛び越えて「バーニーズ ニューヨーク神戸店」もオープン。さらに華やぎを増した。


 「つなぐ」「励ます」「あたためる」「語る」「呼び覚ます」「変える」「よみがえる」。これら7つの「奇跡」のうち、「つなぐ」や「あたためる」などのいくつかは既に東日本大震災の被災地で叶えられ始めている。そして、「変える」や「よみがえる」が実現するのも、遠い未来の事ではないだろう。その日が1日でも早く訪れることを願うばかりだ。


(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江)