主人公は、世界有数の財閥である「宝生グループ」総帥のひとり娘、宝生麗子。職業は刑事です。正真正銘のお嬢様が身分を隠し、事件現場で犯人捜しをする。これだけでもフィクションの世界を作ることはできますが、ここに毒舌家の執事を配置するのが、作者・東川篤哉のセンス。

 『謎解きはディナーのあとで』は彼らを登場人物とする、全部で6話の推理小説集。お嬢様刑事の上司は、高級車ジャガーを乗りまわす御曹司刑事で、二人のちぐはぐなやりとりも笑えるのですが、実際に事件を解決するのは、執事の影山。

 「失礼ながらお嬢様――この程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」

 自分の主人に対して、この不遜な態度。当然、蝶よ花よと育てられ、悪態をつかれたこともないお嬢様は、「クビよ、クビ! 絶対クビ! クビクビッ、クビクビクビクッ、ビクビクビクビクッ」と声を荒げます。「それでは」と屋敷を去ろうとする執事に、「ちょ――ちょっと待ちなさいよ」と声をかける麗子。最後には、「お願いだから、あたしにも判るように説明してちょうだい」と乞うてしまう。

 この一連の流れが絶妙。お嬢様と執事という普通なら身近ではない存在の彼らですが、非常に素直でわかりやすく、愛すべきキャラクターとして描かれています。そして、こうなるだろうと次の展開は読めるのですが、読めているからこそおもしろい。たとえて言うなら、オチを知っているおなじみのコントを見ているような、あるいは8時45分前後に印籠を出す『水戸黄門』を見ているような、そんないい意味での「お決まりのパターン」に読者はハマってしまうのではないでしょうか。

 令嬢刑事×御曹司刑事×毒舌執事×巧妙なトリック。シリーズ名はまだ決まっていないようですが、作者の代表作になることは間違いなさそうです。



『謎解きはディナーのあとで』
 著者:東川 篤哉
 出版社:小学館
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