サラリーマンはどうして生まれた?

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 「サラリーマン」が社会にいつ頃登場したか、ご存知ですか?
 それは、昭和初期の頃だそうです。知的労働者が台頭しはじめたこの当時、「サラリーマン」というライフスタイルは、どのように誕生し、そして今に繋がってきたのでしょうか。
 それを分析しているのが、『サラリーマン誕生物語―二〇世紀モダンライフの表象文化論』(講談社/刊)です。

 著者の原克(はら・かつみ)さんは、早稲田大学教授。表象文化論、ドイツ文学専門。19から20世紀の科学技術に関する表象分析を通じて、近代人の精神史、未来を志向する大衆の文化誌を考察・展開しています。

 20世紀(日本でいえば昭和初期)になって、日本人の労働スタイルは大きく変化していきました。「サラリーマン」という、いわゆる知的労働者が台頭し、社会の中心原理となり、それに伴い、人々のライフスタイルや意識も大きく変化したのです。
 例えば、満員電車内でのマナーや、出社時間に遅れまいとする時間感覚、おそらく一生親しく交わることはないであろう不特定多数の人たちとの微妙な距離感覚などといった当たり前のライフスタイルも、その誕生は二十世紀に入ってからです。
 著者の原さんは、「サラリーマンというものは、実に、二十世紀的な現象だ」と語っています。

 本書に登場するのは、のんきで、どこか憎めないサラリーマン、阿部礼二という若者。彼を「狂言回し」の役割に当てて、阿部君のある一日の物語を通じて、表象論が展開されていくという構成です。※(TOKYO FMの『あ、安部礼司』とは関係ありません)
 ごく普通のサラリーマン、阿部礼二が、同僚とともに、当時の最新オフィス機器を使っていく描写がありますが、そこについて歴史的検証や、最新機器に向かい合ったときの精神性を論じています。

 本のメインとなっているのはオフィス機器ですが、それらオフィス機器が導入されていった理由は「効率化」です。今も昔も、業務改善や効率化は、多くの企業で謳われていたのです。黎明期からその姿は変わっていないのですね。
 そんな「効率化」を目的としたオフィス機器導入の最たる例が、タイムカードです。昭和初期、タイムカードが出始めた頃こんな広告記事があったそうです。

 本器は一人一枚のカードに其で出入り時間を正確に印刷するものにして、工場及び事務所に於て勤労の時間を最も正確に計算して、事務員職工他労働者の勤怠を知り得る器具である。

 著者の原さんは、このタイムカードという機械は、他のオフィス機器とは一線を画した次元の違うものだと言います。

 なぜなら、タイムカードとは「サラリーマン “が” 使う機器」ではなくて、「サラリーマン“を” 使うための道具」だから。タイムカードを押すとき、サラリーマンは時間管理という執務を行う「主体」ではなく「容体」であり、時間管理をする部署のための「素材」になっているのです。タイムカードは、「効率化」を目指すために導入された、今までになかった画期的な仕組みのひとつなのです。

 このように本書では、当時のサラリーマンと機械の関係を綴っています。
 「オフィス機器」というサラリーマンにとって身近な存在の導入が、サラリーマンをどのように変化させていったのか。興味深い考察がなされています。
読む新刊ラジオ第1364回:本書をダイジェストにしてラジオ形式で配信中!

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