「本は紙である」という環境で育ってきた僕らに、電子書籍はどんな未来を見せてくれるのでしょう。『Web本の雑誌』はブック・コーディネイターの内沼晋太郎さんとともに、端末を持って関わりのありそうな方にお話を聞いてきました。

第5回は、実際に紙の本を扱う書店のおふたりをゲストに迎えました。出版と書店が一体化した新形態の書店、シブヤパブリッシング&ブックセラーズの CEO、福井盛太さんと「文脈棚」で知られる千駄木の名物書店、往来堂の店長の笈入建志さん。「本」や「読書」のスタイルを提案してきたふたりの目に現在の電子書籍と、未来の読書像はどう写っているのでしょうか。


【電子と紙、両形態の書籍を選択する時代が来る】

内沼 今日はインディペンデント系として知られるリアル書店を運営するおふたりに、電子書籍についてお話を伺いたいと思います。まずはどんなお店を運営しているのか、簡単にご紹介いただけますか。

福井 うちは、シブヤパブリッシングアンドブックセラーズ(SPBS)という名前の通り、渋谷にあって、小売りの書店という機能と、出版物を作る機能を一体化した店舗です。書店は本を右から左に売るだけでなく、人と物と情報とが集まって新しい価値観が育まれる場所であってほしいと思って立ち上げました。店舗で本の魅力を伝えるイベントをするなど複合的な形の本屋です。

笈入 往来堂は「町の本屋」という器を、お客様にとって魅力的なものにしようというコンセプトの書店です。店構えは家族経営のようで、表には「小学一年生」 や週刊誌が並んでいるんですが、奥に入っていくと、人文書、翻訳書、文芸書という、その規模の書店にはあまり似つかわしくない(笑)書籍を扱っています。付録つき雑誌の好きなお子さんから、かなりの読書家まで両極のお客様を想定した店作りを心がけています。

内沼 SPBSも往来堂も、いわゆる大型店や旧来型の町の本屋とは違い、出版取次(卸)のパターン配本に頼らず自ら売りたいものを仕入れていて、その独自の棚作りに人気があります。今日、ここに並んでいる電子書籍に触れて頂いて、率直な感想を頂ければと思っています。まずこのなかで触れたことがある端末というとどれになりますか?

福井 僕はiPadとキンドルだけですね。

笈入 僕はソニーReaderとKDDIのbiblio Leafにも触れたことがあります。ここに用意して頂いた端末だとGALAPAGOS以外は一通り触れています。小さい方のGALAPAGOSは触ってみたんですが、大きい方は初めてです。

内沼 リアル書店を経営するおふたりは、電子書籍にはどういう印象をお持ちですか?

福井 初めてキンドルを手に取ったとき、「これは既存の書店が、大変なことになるぞ」と衝撃を受けました。とりわけ数をそろえていて新刊の売上比率が高いような大型書店にとっては脅威になるかもしれない、と。僕自身は紙の本の方が好きですが、これで満足する人もいるでしょうね。

笈入 言葉は良くないかもしれませんが「暇つぶし」の読書にはうってつけですよね。時間が少し空いたけど、書店に行く時間はない。でも端末はあるからマンガでもダウンロードして読もうというニーズは確実にあるでしょう。携帯コミックスは既に年間600億円市場となっています。スマートフォンや電子書籍の普及により、この数字はさらに伸びるでしょう。

内沼 そのなかで書店が果たす役割というのは変わってくるのでしょうか。書店で電子書籍端末を販売したり、コンテンツをダウンロード販売するようなことも考えられますか?

笈入 海外では既にやっている書店もありますし、十分考えられますよね。電子化の波によって、変わる部分と変わらない部分はあるでしょう。たぶんSPBSさんやうちに来るようなコアな本好きのお客さんは、恐らく電子書籍端末にも興味が強いんじゃないかと推測しています。電子版にも抵抗はないけど、紙を捨てることもない。だから出版社には、紙の本と電子版を同時に作ってもらって、読者が選択できるような形になるといいですね。

福井 売る側が選択肢を用意するのは大切ですよね。例えば映画などは、既にDVDの売上も見込んだ上でのビジネスモデルになっています。「紙or電子」という原理主義に陥ってしまうこと自体、危ないしナンセンス(笑)。だから端末についても考えられるどころか、ぜひ売りたいですね。SPBSは純粋な書店というより、本にまつわるものや世界観を届けるお店のつもりです。電子書籍ももちろん本だと考えていますし、コンテンツを販売するようなトークショーなどイベントとの連動も考えられますね。


【電子書籍端末のなかに店舗を出したい】

内沼 SPBSさんは出版にトークイベント、スクーリングなど、本の販売以外の事業も手がけていらっしゃいます。「本屋」という枠を広げるとき、例えば「本棚がない本屋」というような極端な店舗を作る可能性もあるのでしょうか。

福井 ゼロになるということはないでしょうね。目で面を見るという本棚の機能は、人間の五感に訴えかける非常に重要な情報だと考えています。これはネットや電子というパッケージにはそのまま置き換えることはできません。商売ですから「絶対」ということはありませんが、できる限り本棚は維持していきたいですね。

笈入 本好き、本読みにとっては「本に囲まれる」こと自体が興奮だったりしますからね(笑)。やはり目の前にあって手で触れることができる。中面をパラパラとめくることができる本棚という機能は非常にすぐれている。現状の書店としてはお客様に「あの店の本棚はほしいものばかりでヤバイ」という訴えかけができるかどうかが大切ですね。

内沼 例えばソニーのReader™ Storeなどは書店の本棚を意識した作りになっています。僕自身もLISMO Book Storeのキャンペーンで、本の中面から一節を抜き出す「今日の一節」という企画に携わらせて頂きましたが、書店でいう手書きPOPのTwitter版と言えるかもしれません。

笈入 リコメンドする人の個性が見えるのは大切ですよね。最近、往来堂では書店員だけでなく、お客様にもおすすめの本を選んでもらって棚作りをしています。まったくの匿名ではなくて、地元の"谷根千"でショップを経営するような「顔の見える人」にお願いして、セレクト書店ならぬセレクト本棚を作っています。

福井 電子書籍端末のなかに「本屋が集まったバーチャルタウン」を作ってもらって、そこに僕らのような書店も入れるといいな、と思います。「バーチャルタウン」に往来堂さんやSPBSが店舗を持つんです。もちろんそこには全国チェーンの大型書店も名を連ねます。当然、本屋によって扱う商品のダブりもあるでしょうが、お客様には"店の個性"で書店を選択していただく。本棚やリコメンドの内容によって、本屋同士のフェアな競争が行われていれば、本好きな人は神保町などで本屋巡りをするときと同じような楽しみを端末のなかで味わっていただけると思うんですよ。あっ、そんな「本のバーチャルタウン」ができたら、僕、真っ先に往来堂に行っちゃいそうですけど(笑)。

内沼 ちなみにおふたりが、もしご自身でこうした端末を使うとするとどう使われるのでしょうか。

福井 いわゆる「文字物」であればこっち(キンドル、Reader、biblio Leafなどの反射光端末)ですね。カラーの雑誌なら、こっち(iPadやGALAPAGOSなどの液晶端末)かな。ただ自分で持っていないので、一冊通して読んだことがない。読み通したときに体がどう感じるかというところにも興味があります。

笈入 僕はいまのところ、本は紙で読みたいからiPadのようにパソコンの機能を一部肩代わりしてくれるような多機能端末がいいですね。電子書籍で読むとしたら何だろう......。あ! 本棚の奥の方にこっそり隠しておきたいような本はいいかもしれませんね(笑)。

(構成:松浦達也)



<プロフィール>
福井盛太
ふくい・せいた●1967年愛知県生まれ。SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(シブヤパブリッシングアンドブックセラーズ)CEO。出版社でビジネス誌の編集に携わった後、フリーランスに。PR誌や単行本の編集、雑誌での執筆、企業のコンサルタント業務などに携わる。05年編集プロダクション(株)EDIT設立。07年SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS,LLC(SPBS)設立。現在は、季刊誌『ROCKS』の編集人でもある。
http://www.shibuyabooks.net/


笈入建志
おいり・けんじ●1970年東京都生まれ。往来堂書店店長。早稲田大学商学部卒業後、大型書店で6年間勤務。2000年、個性的な棚作りで注目されていた往来堂書店が店長を募集していると知り応募、店長に。「新しい発見のある本屋」を目指して日々奮闘中。実は往来堂書店では、本連載のナビゲーターである内沼晋太郎氏がアルバイトをしていたことも。
http://www.ohraido.com/

内沼晋太郎
うちぬま・しんたろう●1980年生まれ。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。「本とアイデア」のレーベル「numabooks」主宰。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)。LISMO Book Store Magazine編集長。http://numabooks.com







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