NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』の第9回「義父の涙」が、3月6日に放送された。今回は柴田勝家(大地康雄)一家のホームドラマ、羽柴秀吉(岸谷五朗)と千利休(石坂浩二)の茶席漫才、高みの見物をする徳川家康(北大路欣也)と前回と変わらない展開が続いた。

 前回の放送で真心や誠実さという新たなイメージを打ち立てた勝家であったが、今回は軟弱過ぎる。江(上野樹里)ら三姉妹が「戦は嫌にござります」と口を揃えて秀吉との戦争に反対し、勝家も「戦はしない」と約束する。伝統的な時代劇ならば「女子供は口をはさむな」と一喝されるシーンであり、時代考証重視の大河ファンには突っ込みどころである。

 一方で、石坂浩二演じる利休(この時点では宗易)の演技は軽妙酒脱である。  『江』の利休は飄々としていながら、利休の実態に迫っている。利休は茶道の大成者であり、重々しい人物として描かれることが多かった。
 これに対し、『江』の利休は伝統文化の確立者というよりも新しい文化を発展させた人物としての軽やかさがある。茶道は今でこそ伝統文化であるが、当時はルソンの壺など南蛮渡来の文物も取り入れた最先端の文化であった。『江』は利休のイメージを一新する。
 この利休が物語に影響を及ぼしている。茶席での利休の何気なさそうな言葉によって、明智光秀(市村正親)は天下取りを意識し、秀吉は三法師擁立を思い立った。今回も利休は市(鈴木保奈美)が勝家と戦う目的ではないかと秀吉の本音を見透かしている。

 『江』の脚本家の田淵久美子氏は史実軽視と批判されることが多いものの、茶道の描き方には定評がある。大河ドラマ『篤姫』では主人公の篤姫(宮崎あおい)と井伊直弼(中村梅雀)は政治的に対立していたが、茶の湯を通じて心を通わせる。
 篤姫は直弼の点てた茶を飲み、「悔しいが、これほど美味しい茶は初めてじゃ」と率直に褒める。それに対し、直弼は「天璋院様は正直な方ですな。忌み嫌っている相手が点てた茶をうまい、とは意地でも言えぬものでしょうに」と応じる。直弼が茶道に精通していたという史実と、人の心をつかむ篤姫の率直さを組み合わせた好シーンである。このシーンを収録した第32回「桜田門外の変」は平成20年度文化庁芸術祭参加作品にもなった。

 利休の大きな見どころは切腹である。利休は権力者・秀吉に対しても自らの美意識を貫いて切腹したとされる。『江』では清州会議直前の茶席では秀吉と利休の対立を予見するような会話がなされた。
 秀吉は信長没後に秀吉の茶頭になった利休の変わり身の早さをなじる。利休が 「茶の湯のため」と答えると、秀吉は「茶の湯のためなら心を売るのか」と問う。ここで間が入る。後の利休と秀吉の対立を知っている視聴者は利休が激怒すると予想する。ところが、利休は「茶の湯のためならば命も売る」と、さらりと返す。『江』が利休切腹に対し、どのような解釈を提示するのか楽しみになる会話である。脚本家の描く茶の湯にも注目である。
(林田力)

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